はじめに
発達障害は精神科もしくは心療内科で行われる、
所定の診察や検査の結果、診断される障害です。
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この診断基準を満たさない場合、
発達障害に類似した症状が確認されたとしても、
発達障害とは診断されないケースも見られます。
このように、発達障害の傾向こそあるものの、診断には至らない状態を、
発達障害のグレーゾーンと称することがあります。
グレーゾーンの場合、自身が発達障害の特性を持ちつつも、
確定診断が出ていないためにそれを自称することができず、
周囲からの十分な理解が得られにくい傾向にあります。
また、自分自身でも特性によるものを、「甘え」なのだと自責してしまい、
仕事や集団生活に悩むケースが少なくありません。
ここでは以下、発達障害グレーゾーンの人に見られる特徴などを解説します。
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大きく3種類に分けられる発達障害
まず、発達障害は、大きく以下の3つに分類されます。
いずれかに準じる傾向が見られるものの、
診断には至らない人を、発達障害のグレーゾーンの人と呼ぶことがあります。
それぞれの特徴や症状について、確認しておきましょう。
★自閉スペクトラム症(ASD)
典型的な症状として、興味や関心の偏りや、
コミュニケーションの不得意さなどがあげられます。
おおよそ54人に1人(全人口の約1.85%)の発症率で、
男性の発生頻度が女性の約4倍であると報告されています。
原因はまだ究明されていませんが、
遺伝子的な要因が複雑に関係して生じる、
脳機能障害の一種であると考えられています。
先に触れた通り、言語やコミュニケーション能力に障害が出るケースが多く、
集団行動や他人と接することが苦手な傾向が見られます。
★注意欠陥・多動症(ADHD)
不注意特性、多動性、衝動性などが見られる障害です。
それぞれが単独とは限らず、複数の症状が混在して出る場合もあります。
児童生徒の場合、授業中に落ち着いて着席し続けられない、
宿題を忘れる、順番を守るのが難しいなどといった特徴が見られます。
また、年齢が大きくなっても、提出期限を守れない、遅刻を繰り返すなど、
社会生活上の悩みを抱える人が少なくありません。
特に女性のADHDには、不注意優勢型の人が多く、
学生時代にはそこまで問題にならなかったことが、
例えば仕事の締め切りを忘れてしまうなど、
社会人になって初めて、課題となるケースがよく見受けられます。
★学習障害(限局性学習症・LD)
読み書きや計算など、特定の分野が苦手を感じる障害です。
先に述べたASDやADHDに比べて発見が遅れがちなのがLDといわれています。
知的障害とは違い、知能の発達には遅れが見られないため、
「怠けている」と周囲に思われがちなのが厄介なところです。
LDは、大きく以下の3つに分かれています。
読字障害(=読むことが困難な障害)
書字表出障害(=書くことが困難な障害)
算数障害(=算数や推論が困難な障害)
必ずしもすべての分野が苦手なわけではなく、
むしろ他の教科は軒並みできるほうなのに計算だけができない、
といったようなケースが、数多く指摘されています。
多くの子どもは就学のタイミングで、読み書きや計算を勉強し始めます。
小学校入学後に勉強に遅れが見られ始め、診断を受けた結果、
学習障害であることが判明した事例は少なくありません。
周囲の大人たちが「単に苦手なだけ」と判断してしまい、
学習障害であることに気づかないケースも見られます。
発達障害グレーゾーンの人の特徴
ではさっそく、発達障害グレーゾーンの人に現れやすい、
特徴や困りごとをご紹介していきます。
★自閉スペクトラム症の傾向が見られる
相手の表情を読み取ることや、
言葉の裏の意味を察することを苦手とする結果、
クラスメイトとの円滑なコミュニケーションができず、
集団生活にうまく溶け込めないことがあります。
とりわけ思春期を迎える時期からは、
さまざまな会話を繰り広げることで、人間関係の輪を広げる傾向があります。
そのような中で、自閉スペクトラム症の傾向がある場合、
相手が伝えようとする意図を理解できず、
自らも上手に表現できないために、疎外感や不安感を感じる場合があります。
教師や友人から注意を受けたり、失笑されたりする場面が増えることで、
劣等感などが芽生えてしまうケースも少なくないとされています。
★注意欠陥・多動性(ADHD)の傾向が見られる
不注意特性が強いと、同じミスを繰り返す、遅刻が目立つ、約束事を忘れるなど、
学生時代には謝れば許されていたことが、
社会人になると許容されなくなり、周囲に叱られ、
うつ病といった二次障害を発症するようなケースも少なくありません。
多動性や衝動性が強い人の場合、
仕事中に貧乏ゆすりなどをしてしまったり、落ち着いて作業を続けられなかったり、
やはり学生時代には変わった子、で済んでいたことが、
社会人になると「仕事にやる気がない」などと見られ、
上司から叱られるケースがあります。
とはいえ、多動性や衝動性は、多くの場合、
大人になるにつれてその症状が治まることが多いようです。
その結果、不注意による症状が表面化しやすくなるともいわれています。
★学習障害(限局性学習性・LD)の傾向が見られる
LDグレーゾーンの場合、
小学校の勉強にはなんとかついていけることも多くあります。
しかしながら、計算ができない、読み書きが苦手、といった特徴を克服するために、
人一倍努力をしなければならず、それでも思うように点数が取れないと、
やはり劣等感に苛まれたり、勉強に対する意欲が失われたりすることがあります。
学年が進み中高生になると、授業内容がより高度となるため、
勉強の遅れが目立つ場面も増えていきます。
本人は懸命に努力しているにもかかわらず、
数学の公式を活用できず、英文法が暗記できなければ、
テストの点数が取れず、成績も伸びません。
悩む本人に対し、学習障害であることに気づかぬ周囲から、
努力不足だと指摘されれば、どうしても学習意欲を保ち続けるのは難しいでしょう。
社会人になると、仕事の飲み込みが遅い、
指示された作業内容が理解できないなど、業務上の支障をきたすことがあります。
しかしながら、漢字の変換や計算作業などに関しては、
パソコンやスマホなどのツールを活用することで、ある程度補うことも可能です。
このため、大人の学習障害の症状は表面化しにくいとも考えられます。
ただし、周囲からは「仕事ができない人物」といった、
意に沿わないレッテルを貼られてしまう可能性が高く、
自信喪失につながるリスクが懸念されます。
まとめ
発達障害グレーゾーンの人の多くは、
自己肯定感が低くなりがちだといわれています。
しかしながら、発達障害の確定診断がないため、
周囲に障害者とは言えず、苦しい思いをすることが多いでしょう。
さらに障害者手帳の交付も難しいため、障害者雇用で働くことも不可能となります。
「できなくても仕方ない」と、自分自身を納得させられず、
より一層努力してみても結果がついてこない悪循環が、
さらに自分自身を追い詰めてしまいます。
また、診断が下されていないことで自身の悩みを周囲に打ち明けられず、
発達障害の傾向を隠し続けようとする人も、少なくないと思われます。
こうした頑張りは心身の限界を招き、二次障害へと繋がりかねません。
- 信頼できる誰かに相談する本人の勇気
- 周囲の人が理解に努める姿勢
この2つは、発達障害グレーゾーンの人にとって、
必要不可欠な環境だといえるでしょう。
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