はじめに
自閉スペクトラム症(ASD)の多くの人には、
それぞれの考え方や行動に関する、強いこだわりや独自の傾向が見られます。
少数派とされるこれらの特性は、さまざまな場面でマイナスに作用することがあります。
そのため周囲の人が気づかない、または理解しづらい「困りごと」に、
悩んでいる人は少なくありません。
というわけで今回は、
ASDの人が抱える日常生活における困りごとと、
著者の考える具体的な対応策をご紹介します。
日常生活における困りごと①:定食が食べられない!
日常生活における困りごと、1つ目は「食」にまつわる困りごとです。
とある10代女性の困りごとを覗いてみましょう(._.)
決して好き嫌いが激しいわけでもない彼女ですが、食事タイムが大の苦手だそうです。
「行儀が悪い」とされる迷い箸を続けてしまい、食事が一向に進みません。
とりわけ複数のおかずが並ぶ定食や、
さらには数段重ねのお重を目の前にすると、
頭の中がフル稼働を始めてしまうのだとか。
「最初にお味噌汁の具を1つだけ食べて、次にご飯を2口食べて……、このペースだとラスト手前でおかずが足りなくなってしまう……。えっと、えっと、どうしよう……」
頭の中のシミュレーションが固まるまで、
箸先は中空をさまよい続けるばかり。
自宅では母親に毎回注意される繰り返しですが、
それでも最初の一口を食べ始めるまで、
30分以上考え込んでしまうこともあるそうです。
「小中学校時代の給食の時間は、ホントに辛かったです」
そんな彼女が現在一番困っていること、
それは、「知人からの外食のお誘い」です。
なるべく、自分の特性を理解してくれるような、
限られた親しい相手とだけ食事を共にしている現在ですが、
「この先実社会にでれば、そういうわけにもいきませんよね……」
卒業後の日常生活、とりわけ食事の場面に対する不安がぬぐえないようです。
★対処法【日常生活における困りごと①:定食が食べられない!】
ASDの人に見られる特性のひとつが、独自のルールに基づく強いこだわりです。
「そんな小さなこと、どうでもいいでしょ?」
多くの人がこのように気にもかけないことが、本人にとってはスルーできません。
彼女の場合は、食事の最初から終わりまで、自身が納得できるシナリオが必要だそう。
食べる順番から口に含む数量まで、最初に決まっていなければ安心できません。
では以下、著者の考える対処法をご紹介します。
・単品(シンプルな)メニューから外食の機会を増やしてみる。
カレーライス、ピラフ、パスタなど、
お皿1枚に単品が盛られたメニューから、
外食の練習を始めてみてはどうでしょうか?
実際、著者はなるべく具のないものを外食では選ぶようにしています。
サイゼリヤのハンバーグ、マックのハンバーガー(ピクルス抜き)など、
迷う要素が少ない物からトライしてみると良いでしょう。
これらであれば、いわゆるお一人様での入店も、
ハードルが低いという嬉しいポイントがあります。
また、自身の特性を理解してくれている友人に、
同伴協力をお願いするのも良いでしょう。
- 「いつも同じお店じゃないと安心できない」
- 「聴覚過敏なので、賑やか過ぎる音楽が流れるお店は無理!」
- 「タバコの匂いや香辛料の匂いなど、匂いがきついお店はしんどい」
そんな困りごとがある方々でも、
気の置けない仲間たちと食卓を囲み、楽しんでいる人は少なくありません。
著者もまたその一人です。
いつも同じお店、同じメニュー、なるべく同じ席……、
それでも付き合ってくれる友人には感謝しかありません(*´ω`*)
「カレールーとご飯の配分が納得できない……」
こんなふうに考えてしまうこともあるかもしれません。
しかしながら、何事も挑戦してみなければ分からないもの。
「ルーを増量してもらうとか、ご飯を少なめにしてもらえば?」など、
今まで気づけなかったアドバイスを、友人からもらえることもあります。
より安心して食べられる食べ方の発見にもつながります。
もちろん、無理矢理克服しなくても大丈夫です。
まずは少しだけ勇気を出して、食事の楽しさを探してみてはいかがでしょうか?
日常生活における困りごと②:気づけば独演会状態で周囲に迷惑を……
次にご紹介するのは、30代・会社員男性の困りごとです。
普段は無口でおとなしい彼ですが、
自分のツボにはまった話題となると一転、
周囲に一切発言させない独演会が始まってしまうのだとか。
「気づいた時にはその場の雰囲気を壊してしまっていて、反省するのですが、いつもその繰り返しで、申し訳ないばかりです……」
学生時代に友人から面と向かって指摘されて以来、
自分では注意しているつもりでも、
「キーワードが耳に入った瞬間、トップギアに入ってしまって、そこから制御不能です」
呆れた人たちの輪が散ってしまった後も、
気が済むまで語り続けることもあるそうです。
ASDの人のなかには、
いわゆる「KW=空気が読めない人」と囁かれた経験から、
対人関係に神経をすり減らしている人が少なくありません。
笑顔の会話が弾む輪に入りたくても、苦い記憶がブレーキとなってしまい、
目立たぬ立ち位置に逃げ込み、聞き役に徹してしまいがちなことも……。
せっかく話したいのに、こういったトラウマから会話の輪に入れないのは、
やっぱりつらいことだといえるでしょう。
★対処法【日常生活における困りごと②:気づけば独演会状態で周囲に迷惑を……】
たとえば「あ行」が苦手な吃音の人が、
- 「兄」→「兄弟」(あ行をか行に)
- 「あなた」→「そちらさま」(あ行をさ行に)
同じ意味を持つ別の言葉に置き換える工夫をしているケースは、多数伝えられています。
多少の不自然さを覚える聞き手もいるでしょうが、努力と気遣いは必ず伝わります。
そういった努力と気遣いを心に、
話の輪に入る挑戦をしてみてはいかがでしょうか?
・「(自分もひと言)話してみてもいいですか?」の気遣いを心がける。
気の置けない仲間とのフリートークは、基本アドリブでの言葉のキャッチボールです。
次に誰がどんな言葉を発するのか、
誰も予測できない状況でのコミュニケーションです。
しかしながら予定調和でない環境に不安を覚え、周囲が目に入らなくなりがちな人の場合、
彼のような独演会状態に陥りがちです。
不特定多数の人に共通して効果的と思われる、
こうした困りごとへの対応策は、残念ながら著者にも思いつきません。
しかしながら、自身の”スイッチ”を認識しておくことで、
少しは独演会状態を回避できるかもしれません。
例えば、
昨日の雨凄かったよねー。ほら、あそこの階段で滑っちゃってさ~
と、同僚に言われたとき。
「その商業施設の屋外階段は、僕もつまづいたことがありました。全部で52段のコンクリート製で、降雨時には15段目から下だけ雨に濡れてしまいます。ちなみに日照時間が身近い冬季は、午後2時過ぎから隣のビルの影が……」
喉元ではこれだけの早口台詞が出番を待っていましたが、どうにか我慢できました。
男性は理科が大好きで、そういった話にすぐ食いついてしまう自覚があります。
声を出す前に1秒息を吐いて、こう言いました。
「その階段の近くのラーメン屋に急いでいて、僕もつまづいたことがあって……」
するとどうでしょう、ここから思わぬ展開になりました。
「その店なら俺もよく行くよ!あそこの味噌餃子ラーメンはメチャ旨いよな!?」
「え?それってどこ?私も餃子ラーメン大好き!」
自分のひと言に反応してもらえたばかりか、そこから自然と会話が広がった瞬間でした。
一瞬何が起こったのかわからず、次の言葉が続きませんでした。
ああ、会話に入れたんだ!……随分時間が経ってから嬉しさがこみ上げてきたあの日のことは、今も忘れられません。
そう語る彼は、この経験を機に、以下のことを心がけるようにしたそうです。
自分の発言は、まずは基本ワンセンテンスで区切り、様子を見る。
そこから続けるかどうかは、相手の反応を自分なりに見極めた上で判断する。
これは簡単なことではありませんが、そう心がけるだけでも、
大きな変化が訪れることでしょう。
著者自身、独演会状態の会話を繰り広げてしまうことが多々あります。
ひとたびスイッチが入ると、深呼吸をする、なんて忘れてしまうことも。
それでも、常に心がけていれば、ふと思い出すことができます。
独演会状態になってからでも遅くありません。
ごめん、話しすぎた!何の話だったっけ?
そう一言挟むだけで、空気はまた変わっていくことでしょう。
ぜひトライしてみてくださいね♪
まとめ
ここまでご一読いただき、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
今回ご紹介した困りごとはいずれも、
頭ではわかっていても自己制御できない、
本人にとっては大変つらく歯がゆい事例です。
悪意がなくとも、結果的に周囲に迷惑をかけてしまった場合、
その現実から目をそらさず、それでいて自分ばかりを責めすぎない『勇気』。
なかなか難しいことではありますが、
ASDだから、特性だから、とすべてを諦める必要はありません。
信頼できる第三者がいれば、相談することも一つの手です。
まだまだ詳しく知られていない発達障害ですが、
昔に比べれば、ASDに対する世間一般の正しい認識も、確実に広がっているといえます。
心と肩に力を入れ過ぎることなく、
マイペースでひとつずつ克服していきましょう!
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