はじめに
100人に1人の割合で「ある」とされ、時と場所を選ばず発作が生じる「てんかん」。
単純計算で全国にはおよそ100万人存在すると推察される、実は身近な病気のひとつです。
ここでは以下、てんかんに関する基礎知識と、精神障害として認定される理由などを紹介します。
てんかんが障害者手帳交付の対象であることをご存知ない人は、潜在的に少なくないと思われます。
てんかんのある人が利用できる福祉制度などに関する情報も、合わせてお伝えします。
てんかんとは
てんかんとは発作を繰り返す脳の病気で、年齢、性別、人種を問わず発病します。
てんかん発作の症状は当事者ごとにほぼ一定で、同じ発作が繰り返し生じます。
乳幼児期から老年期まで幅広く、発病年齢は3歳以下が最も多く、成人になると現象傾向がみられます。
しかしながら高齢者になると脳血管障害などが原因となり、発病率が増加します。
小児てんかんは成人になる前に治るケースもみられますが、大半は治療を継続することになります。
てんかんの種類と原因
てんかんは原因不明の「特発性てんかん」と、脳に生じたトラブルが原因の「症候性てんかん」に分けられます。
★特発性てんかん
検査では異常が見つからない原因不明のてんかんです。
てんかんは遺伝しないと考えられていますが、発作を起こしやすい傾向が遺伝する可能性が指摘されています。
★症候性てんかん
脳に生じた何らかの障害や、脳の一部が損傷したことで生じるてんかんです。
出生時のトラブル、低酸素、脳出血、脳炎、髄膜炎、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマーなど、
脳が傷害を受けたことが原因とされています。
発作に関して
てんかんは脳の機能が乱れることで生じる発作です。
脳には神経細胞が集中しており、弱い電気信号が通ることでさまざまな情報が伝達されています。
この電気信号が何らかの原因で一斉に過剰に発生すると、脳の機能が乱れ、適切に情報を送受信できなくなります。
その結果身体の動きをコントロールできなくなり、てんかん発作という症状として現れます。
★発作が生じる仕組み
正常な状態の脳の神経は、興奮と抑制がバランスを保っています。
たとえば興奮が強くなりすぎた場合、抑制する神経が働くことで興奮を抑えます。
ところが発作が生じた場合、興奮系の神経が過剰に強く働き、
抑制系の神経が弱まるため、脳内に激しい電気的な乱れが発生します。
★発作が生じる部位と症状
私たちの大脳は中央の溝を境にして、右半球と左半球に分かれています。
右半球が左半身、左半球が右半身の神経をそれぞれ司っています。
さらに脳は各部位ごとにそれぞれの働きを担っているため、
電気的乱れが生じる部位によって、発作の症状が異なります。
てんかんのある人は発作が生じる部位が決まっており、毎回同じ症状が繰り返されます。
たとえば腕を動かす部位の神経に過剰興奮が起こった場合、腕の痙攣がみられます。
▼ここがポイント
世界保健機関(WHO)は、
「てんかんは脳の慢性疾患で、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生するはげしい電気的興奮により繰り返す発作を特徴とし、それにさまざまな臨床症状や検査での異常が伴う病気である」
と定義しています。
精神障害に含まれる理由
続いてはてんかんが精神障害に含まれる理由について、
てんかんがある人の精神症状に着目した解説をお届けします。
なるべくわかりやすく説明させていただきますが、
一部専門的な言葉も含まれます。
それぞれの状況をイメージしながら読み進めていただければ幸いです。
★てんかんに伴う精神症状
てんかんのある人に精神症状が現れる頻度には諸説ありますが、
20~30%程度であるとの説が有力とされています。
ちなみに精神症状が生じる理由として以下の3つが考えられ、
これらの要因は複数が同時に存在するケースもみられます。
てんかん病態による要因
脳の病気であるてんかんがあるために、
脳の機能異常として精神症状が同時に生じることを意味します。
心理社会的要因
てんかんの有無にかかわらず、一様に存在する生活上のストレスが引き金となり、
精神症状が生じることを意味します。
医原性の要因
てんかん治療で用いられる抗てんかん薬の副作用として精神症状が生じることがあります。
これらの精神症状が深刻な場合、精神医学的な対応が必要となることがあります。
ちなみに精神症状の代表的な種類として、以下があげられます。
- うつ状態
気分が落ち込み悲観的になり、普段普通にできることができなくなる状態を指します。
生活上のストレスの軽減や抗うつ剤を使用することで、治癒するとされています。
抗てんかん薬の副作用でうつ状態が生じることも報告されています。
- 幻覚妄想状態
幻聴、幻視、妄想が生じる状態です。
てんかん治療で用いられる抗てんかん薬の副作用として、精神症状が生じることがあります。
治療は生活上のストレスの軽減、治療には抗精神病薬の服用が主体となります。
抗てんかん薬の副作用で幻覚妄想が生じることも報告されています。
- 心因性発作(解離症状)
外見上はてんかん発作に似ているものの、脳波などの検査ではてんかん発作の特徴がみられない症状を指しています。
てんかん発作と心因性発作は別の病態であり、主にストレスが原因で生じるとされています。
不眠やうつ状態が併存する場合には薬剤を使用した治療が行われることもありますが、
心因性発作自体への薬剤の効果は限定的です。
このようにてんかんと精神症状には密接な関係性が見られるため、精神障害のひとつであると認定されています。
精神障害者保険福祉手帳について
障害者手帳とは障害のある人がさまざまなサービスを受けられる手帳で、現在以下の3種類が発行されています。
それぞれが障害者の自立と社会参加の促進を図る目的で設けられ、
交付された人に対し、さまざまな公的支援策が講じられています。
・身体障害者手帳
身体に障害のある人を対象とした手帳です。
・療育手帳
知的障害のある人を対象とした手帳です。
・精神障害者保険福祉手帳
精神障害のために日常生活または社会生活への制約がある人が対象で、てんかんも含まれています。
まとめ
脳内の神経に流れる電気信号のトラブルが原因とされるてんかんは、
時と場所を選ばずに生じ、同じ症状が繰り返されます。
生活上の困りごとが避けられない精神症状とも密接な関係性が確認されており、精神障害として認定されています。
てんかんのある多くの人が、精神障害者保険福祉手帳を交付されることで、さまざまな公的支援を受けています。
今回はスペースの都合上、基礎的な内容に終始しましたが、
てんかんの症状を少しでも多くの人に知っていただければと思います。
なお、筆者は医学的専門知識を持つ者ではありません。
そのため、間違った内容を記載している場合もあります。
ご参考程度に留めていただければ幸いです。
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