はじめに
言葉(ことば)。
それは、私達が互いにコミュニケーションを図るために必要不可欠なもの。
おそらく、殆どの人にとって、異論はないでしょう。
しかしながら、病気、ケガ、発達上の問題などで、
この「言葉」を用いた意思疎通がむつかしい人も、世の中に少なくありません。
ここでは以下、こうした人たちを支援する“言語のスペシャリスト”、
言語聴覚士についてご紹介します。
一体どんな仕事なのか、そしてどのような支援を届けてくれるのか、
ぜひ、当記事を通して、一緒に知ってくれたら嬉しいです。
言語聴覚士とは
言語聴覚士とは、
言葉によるコミュニケーションに支障がある人に対し、
適切かつ専門的なサポートを提供する専門職です。
言葉を自由に操れない不自由さから、
生活にあらゆる支障をきたす人々にとって、
大変心強いスペシャリストといえます。
さて、言葉によるコミュニケーションの問題は、
小児から高齢者に至るまで幅広く生じるとされています。
その代表的な原因としては、
- 脳卒中に起因する失語症
- 聴覚障害
- 言葉の発達の遅れ
- 発声・発音障害
などが挙げられますが、これらは一部であり、そのほか多岐に渡るとされています。
「言語聴覚士」はこうした問題を抱える方々に対し、
以下のように、専門的な対応を行います。
- 問題の本質を見極める
- 発現のメカニズムを明確にする
- 検査や評価を通じて最善と思われる対処法を見出す
- 必要に応じた訓練、指導、助言、その他の援助を行う
どれも専門的な知識が必要で、言語聴覚士だからこそできる仕事です。
▼ここがポイント
言語聴覚士法では、「厚生労働大臣の免許を受けて、言語聴覚士の名称を用いて、音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行うことを業とする者をいう。」と定義されています。
言語聴覚士の仕事
言語聴覚士を一言で説明すると、「話す、聞く、食べる、のスペシャリスト」です。
言語聴覚士の患者は幼児から年配者まで幅広く、それぞれが抱える問題はさまざまです。
先に述べた通り、個々の問題の原因を特定から対処法を見出し、
リハビテーションを通じて症状の改善を図ることが主な仕事です。
それでは具体的にどのような内容なのか、一緒に見ていきましょう。
★成人言語の認知訓練
成人の言語障害の原因は、
認知症、脳梗塞、交通事故などが大半であるとされています。
この障害のために言葉にしたくても表現できない場面が連続すれば、
当事者は大きなストレスが避けられません。
特に、不意の交通事故などで、
それまで何不自由なく言葉を扱っていた人にとっては、
精神的なストレスから精神障害を患ってしまう方も少なくありません。
こうした人たちが自身の思いを言葉にできるよう、
言語聴覚士とよばれるスペシャリストたちは、
リハビリテーションのプログラムを作成し、機能訓練を行います。
★発声発語の訓練
失語症・構音障害・音声障害・高次脳機能障害などで生活に支障をきたしている方へ、
社会生活支援を目的として、訓練を行います。
患者の観察から障害の内容や原因を特定し、
それを加味した発話訓練メニューが組まれます。
★小児言語の認知訓練
子どもの言葉における遅れに対し、
絵本を見せて言葉を引き出し、文字の習得につながる指導を行います。
教育機関と連携して周辺環境を整えることも含め、家族単位で支援します。
★聴覚の支援
まず、聴覚障害の原因としては、
先天的な場合と事故や高齢化による後天的な場合、それぞれが考えらえますが、
どちらの場合でも、検査やヒアリングを通じて、
障害の原因・程度・内容などを見極めることから始まります。
言語訓練のほか、補聴器や人工内耳の調整を行うこともあります。
★摂食・嚥下の訓練
「言語聴覚士」とは結びつかないイメージかと思われますが、こちらも重要な仕事です。
通常、飲み込むという行為(=嚥下)は、
人間の反射によって行われるとされていますが、
脳に障害がきたすと、嚥下障害を発症することがあります。
食べ物を上手に飲み込めず口からこぼれ落ちたり、むせてしまったりする原因を調べ、
食にまつわる能力を高めるため、訓練を行います。
言語聴覚士による嚥下指導を行っている専門の歯医者もあります。
▼ここがポイント
言語聴覚士法では言語聴覚士の業務について、「言語聴覚士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として、医師又は歯科医師の指示の下に、嚥下訓練、人工内耳の調整その他厚生労働省令で定める行為を行うことを業とすることができる。」とされています。
言語聴覚士の職場
言語聴覚士の活躍の場は、その専門性から医療・介護・福祉の現場が主体です。
まだ割合は少ないのが現状ですが、
学校などの教育分野でもその必要性が注目されています。
★医療の現場
言語聴覚士の職場の大半を占めるのが、病院などの医療機関の現場です。
総合病院などのリハビリテーション科、回復期病棟、
リハビリテーションセンター、口腔外科、耳鼻咽喉科などがあげられます。
★介護・福祉の現場
医療現場に続いて多いのが、高齢者介護施設や障害者が利用する施設です。
とりわけ高齢者向けの介護サービスを提供する事業所などでは、
摂食嚥下に関するリハビリが必要不可欠です。
介護スタッフに対し、食事介助時の注意点や、
日常生活で実施可能なリハビリなどを伝達指導します。
集団でおこなうレクリエーションのリーダーを任されることもあります。
児童を対象とする障害者施設では、発達障害のある児童への言語訓練や、
その家族に対する助言を行う機会も少なくありません。
まとめ
言語聴覚士は幼い子どもから高齢者まで幅広い世代と関わる、言葉のスペシャリストです。
言葉を用いたコミュニケーションや、
摂食嚥下などに困りごとを持つ人たちに寄り添い、適切なサポートを届けています。
現時点ではまだまだ広く認知されていませんが、
少子高齢化が進む中、医療や介護などの分野で、着実に活躍の場を広げています。
言語聴覚士の需要は、おそらく高まり続けることでしょう。
創立から20周年を数える一般社団法人日本言語聴覚士協会は、
20000人を超える会員の在籍と、さらなる言語聴覚療法の発展を目指す決意を公表しています。
この機会に“言語聴覚士”の仕事について、ぜひ調べてみてくださいね!
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