ペアレントトレーニングという言葉は、直訳すれば「親の訓練」ということで、意味もそのままです。
障害を持った子供の療育に際し、ただ子供本人に対してだけ何らかのアプローチを行うのではなく、
それに関わる養育者に対しても教育的なアプローチを行い、
また積極的に望ましい関与を行ってもらうことを志向します。
ここではまず、日本国内で比較的よく知られている、
3つのペアレントトレーニングのアプローチをご紹介します。
■精研・奈良式ペアレント・トレーニングとは?
精研・まめの木・奈良式ペアレント・トレーニング、と呼ぶ場合もあります。
もともとはアメリカの、シンシア・ウィッタム博士という、
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の研究者がADHDの家族向けに開発したもので、
それが奈良教育大学で改良され、日本でも実践の中に持ち込まれました。
今日では、ADHDに限らず発達障害全般の支援プログラムとして用いられています。
対象年齢は4~10歳、定員は8名ほど、とされています。
プログラムは1回90分、全10回のセッションからなり、一般的には隔週で開講されることが多いようです。
まず講義とグループワークを受けて学びを得て、それを家庭で実践し、
さらに次回のプログラムでその結果を共有する、という形をとります。
特徴を挙げると、講義には分かりやすい日常的な表現を用いること、
参加者同士のサポートを重視して親子関係の改善を促すこと、が挙げられます。
また、子供の行動について、「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分類し、
それぞれに対する対応を学んでいくという構造をとります。
■肥前式ペアレントトレーニングとは?
日本では比較的古くから行われているペアレントトレーニングのプログラムです。
独立行政法人肥前精神医療センター(当時は国立肥前療養所)が、
知的障害のある子どもの家族を対象として始めたものが発端となっていますが、
現在は知的障害を伴わない発達障害のケースに関しても提供されるようになっています。
対象年齢は3歳から12歳まで、定員は一般的には9名とされています。
10回ほどのセッションを行います。
セッションは講義のほか家庭での対応をグループ内で個別的に検討するパートからなり、
1回あたりは2時間半ほどです。肥前式の大きな特徴は、
行動主義ないし行動療法の考え方を基礎に置いているというところです。
対象となる行動、例えば「座り、食事する」といったようなことですが、
それをまず決めて、家族が家庭内でその行動を観察、記録し、
環境調整や対応について学び、また実践していくというプロセスをとります。
■鳥取式ペアレントトレーニングとは?
最初は兵庫教育大学で、自閉スペクトラム児の家族のためのプログラムとして開発されたのですが、
その後島根・鳥取両県で広く普及するようになり、両県の委託を受け、
地域の通園施設などで開かれているプログラムが、鳥取式ペアレントトレーニングです。
もともとは自閉スペクトラム向けに開発されたプログラムとはいえ、
今は広範に用いられており、その対象は必ずしも障害児のみとも限らなくなっています。
こちらも肥前式ペアレントトレーニングと同じく広義には行動主義の流れを汲むのですが、
より細かくいうとその中でも応用行動分析という一派の系統です。
セッションの総回数は6回から8回程度、一回は90分から120分ほど。
セッションは隔週で実施されるのが一般的です。
対象年齢ごとに複数のプログラムにさらに細分化されており、
幼児から小学校低学年、小学高学年から中高生向けのプログラムが存在しています。
定員は10名程度です。講義とワークを行い、ホームワークで学んだことを実践し、
さらにそれをグループで共有する、という繰り返しの形を持つという点では、
精研・奈良式ペアレント・トレーニングにも似ています。
ペアレントに子供の特性や発達の状態を理解してもらい、
また子育ての仲間を作ってもらうことなどを目的とし、
また実践面では、子供の誉め方、環境調節のやり方、
指示の出し方、行動の教え方、などを方法の中心に据えています。
ペアレント・トレーニングのまとめ
参考例ではありますが、以上3つをご紹介しました。
ペアレントトレーニングというのは具体的にこういうものである、という、
統合的な体系が確立されているわけではなくて、
立場や考え方に応じた様々な技法が存在しているというのが実情ではあるのですが、
何よりもまず「障害とは当人だけの問題ではなく、それに関わる環境や周囲の人間全体のものであって、
その中でも関わりの中心となるペアレント(※肉親とは限りません)に対して、
例えばその生涯に関する深い理解を促すなどの手段によってアプローチをする、
という考え方については共通しています。
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