はじめに
「にぎやかな環境の中では、人の話が聞き取りにくい」
「耳で聴く言葉や音声だけでは話が理解しづらい」
「電話口の声は聞こえているが、何を話しているのかがわからない」
こういった症状にお困りの方はいらっしゃいませんか?
もしかするとそれは、APDもしくはLiDと呼ばれる、
聴覚情報処理障害(聞き取り困難)のせいかもしれません。
ここでは以下、近年その認知度が広がりを見せている、
「APD」や「LiD」について、解説していきたいと思います。
LiD/APDってどんな意味?
★APD(聴覚情報処理障害)について
聴力検査では異常がなく音は聞こえているにもかかわらず、
内容が聞き取れない、聞き間違いが多い、などの症状が認められる場合、
聴覚情報処理障害(APD=Auditory Processing Disorder)の可能性が考えられます。
欧米ではAPDは主に小児の聴覚障害のひとつとされ、
診断基準や支援方法に関し、各国でガイドラインの作成が進められています。
また日本国内でも研究が進められており、
欧米の見解とは異なり、聴覚のみの障害ではなく、
発達面の障害を抱える多くの事例が指摘されています。
★LiD(聞き取り困難)
APDに関する研究が進められるなか、
海外で使用される場面が多くなった言葉が、
LiD=Listening Difficultiesという新たな症状名です。
LiDは「聞き取り困難」と和訳され、
従来のAPDをLiD/APDと表記する動きが、日本国内でも見られはじめています。
「聞こえているのに聞き取れていない」LiD/APD
近年まで一般的には認知されていなかったと思われるAPDは、
聴力検査では異常がないもかかわらず、聞き取りに問題が見られる障害です。
教育現場や医療現場から症例が少しずつ報告され、
近年その言葉が注目されるようになりました。
LiD(聞き取り困難)という名前は、まだあまり浸透していませんが、
APD(聴覚情報処理障害)と同じように、少しずつ世に知られていくかと思います。
今年、「LiD/APD」についてわかりやすく描かれた漫画本が発売されました。
ぜひみなさんも読んでみてください!とても読みやすいです♪
▼マンガ APD/LiD って何!? 聞こえているのに聞き取れない私たち [ きょこ ]
マンガ APD/LiD って何!? 聞こえているのに聞き取れない私たち [ きょこ ] 価格:1650円(税込、送料無料) (2022/10/7時点)楽天で購入 |
「LiD/APD」推察される原因
LiD/APDの原因はまだ明らかにされておらず、
現在も原因究明が進められています。
空気の振動として届いた音が鼓膜に伝わり震え、
耳小骨から内耳経由で電気信号となり、
これが神経を通じて脳幹に届き、音声情報として認識されること、
これが、=「聞こえる」ということ、です。
この過程のいずれかに問題があることで、
LiD/APDを発症すると考えられています。
また、先に触れた通り、
単なる聴覚障害、聴覚情報処理の問題だけではなく、
言語障害や認知機能の問題もあるのでは?……との問いかけも生じ始めています。
ちなみに欧米の研究報告では、
子どもの2~3%に症状が見られるとされています。
当事者が抱える困りごととは?
日常生活上の困りごとが懸念されるLiD/APDですが、
意外にも学校生活においては、
これらがそれほど表面化しないとも報告されています。
というのも、学校社会では、
「いつもぼんやりしていて話を聞いていない」
「妙なタイミングであいづちを打つ変わった子」
などと囁かれるだけにとどまり、
問題化しないケースが少なくないと推察されるからです。
しかしながら仕事となると、こうした見逃しや聞き流しは、
一気に「困りごと」として表面化します。
★実社会で直面する困りごとの具体例
- コンビニや居酒屋などの接客業(アルバイト含む)で、客の注文を聞き逃してしまう
- 顧客(取引先)からの重要な電話連絡を聞き違えてしまい、大問題に発展してしまう
- 作業現場の騒音で注意喚起を聞き分けられず、大きなリスクを抱えてしまう
などなど。
これらのような困りごとから、仕事がうまくいかず、
悩みを抱え続けてしまい、うつ傾向となるケースも伝えられています。
こうした展開を回避するためには、
問題が表面化する前の子ども時代から、適切な対策を講じ、
きめ細かなサポートを受ける必要があるといえるでしょう。
「やる気がないと誤解されてしまうことが悔しく悲しい」
「聞き返しても怒られないような環境で暮らしたい」
「耳や神経を休める時間がほしい」
ここまでの内容から察せられる通り、
Lid/APDの症状を持つ人は、個人差こそあれども、
それぞれが何らかの「困りごと」「苦しみ」を抱いています。
求められる対応策
これらを踏まえて、周囲に求められる対応策を、
私なりに考え、以下に列記してみました。
★診断法の確立
・当事者の生活圏内に適正な診療が可能な医療機関が在る環境
・周囲の人たちに理解を求めるための客観的な証明(=診断など)
・一つの障害として認定されること(=障害者手帳の認定など)
★LiD/APDの啓発活動
・世の中に周知してもらえる環境整備
・補聴器などのツール開発とさらなる進化(=able aidなどは良い例ですね)
・音声における視覚化の推進(=エキマトペなど)
▼あわせて読みたい
★当事者が暮らす環境の整備
・合理的配慮が受けられる環境づくり
・当事者や支援者が情報交換をできる場所づくり
など、まだまだたくさんの課題がありそうです。
まとめ
LiD/APDに関しては、
医療・教育の現場でさまざまな取り組みが試みられていますが、
ここで重要となるのが、自身の聞き取りに不安を感じた際の初期対応です。
とりわけ子どものLiD/APDの早期発見には、保護者の観察力が求められます。
「十分に聞こえていないのでは?」
「聞こえてはいるものの理解できていないのでは?」
などと気になったのであれば、
まずは速やかに最寄りの耳鼻科を訪ねる対応が大切です。
聴力検査の結果難聴の可能性がないことが判明すれば、
LiD/APDの可能性を視野に入れ、
専門医療機関で検査を受けることをおすすめします。
とはいえ、LiD/APDと診断可能な耳鼻科は少なく、
診断環境が十分に整っていないのが残念ながら現状です。
それでも、耳鼻科などを訪ねることは決して間違った対応ではありません。
また、もしかするとLiD/APDを診断できる病院が、
調べてみれば近くにある可能性もあります。
「聞こえているのに聞き取れない」というのは、
当事者でなければなかなか理解しづらい症状かもしれません。
それでも、理解しようとしてくれる人が増えれば増えるほど、
当事者や支援者はもっと生きやすくなるはずです。
もし、今回初めて「LiD/APD」という言葉を知ったのであれば、
ぜひ他の誰かに、一人でもいいので教えてみてください。
そうやって、少しずつその輪が広がっていけば良いな、と私は思います。
コメント