感覚統合療法は、
もともとは発達障害の一種であるLD(学習障害)に適応するための、
作業療法の一つとしてアメリカの作業療法士エアーズによって体系化された、
一群の考え方と実践の体系です。
その後、自閉スペクトラムなどにも適用範囲を広げて今日に至っています。
ABA、TEACCHと比べると、
療育場面における知名度はやや劣りますが、
作業療法の世界の中では比較的高く認知されている考え方のようです。
■作業療法とは何か
まず、作業療法とはそもそも何なのかという話からしていきましょう。
作業療法は、身体ならびに精神、あるいは発達に障害を抱えた個人や集団に対し、
社会的生活の維持を目的として、様々な作業の訓練を行うことをいいます。
つまり広義の作業療法という概念には、
交通事故などで四肢が不自由になった人が行うリハビリテーションも含まれますし、
療育という概念自体まるごと作業療法の中に含まれると捉えることもできます。
何しろ広範な概念なので、
その実践の中にはABAのような行動主義の理論も、
そしてフロイト以来の流れを持つ精神分析の理論なども取り込まれていますが、
感覚統合というのは作業療法の世界で独自に生まれて発展した概念です。
■感覚統合とは何か
感覚統合という概念は、
エアーズが提唱したSensory Integrationという言葉の訳語です。
英語でも訳語でも耳慣れない言葉ではあるのですが、
分かりやすく説明していきます。
感覚統合という言葉それ自体は、
「使うために感覚を組織化すること」と解されます。
人間には五感をはじめとする様々な感覚の機能があり、
常に洪水のように情報が流れ込みますが、
本来、脳や神経系統の働きにより、
それらは適切に整理され、人間の行動のために処理されます。
しかし、発達障害を持つ人においては、
その感覚統合の処理が常人よりもうまくいっていない、とエアーズは考えました。
感覚統合は「完全」であることも「無」であることもなく、
健常者であれ障害者であれ程度問題として個人差があるのですが、
それにしても、そこに全般的に困難を抱えているのが、
LDや自閉スペクトラムである、というわけです。
エアーズの考えでは、発達障害とはつまり感覚統合の障害、なのです。
■感覚統合療法の実践
感覚統合は人間の自律的機能ですので、放っておいてもある程度は改善に向かいます。
しかし、発達障害児に対して適切な感覚統合を引き出すアプローチをするためには、
通常の家庭や学校などとは異なる、治療環境の構築が必要であるとエアーズは説きました。
感覚統合療法の基本原理
適切な反応が自然に生まれるように、
コントロールされた環境刺激を与えていく、というのが感覚統合療法の考え方です。
そのためには、簡易でありかつ専門的な器具を揃えたプレイルームが必要になります。
感覚統合の診断
どんなメソッドでもそうですが、
治療の前に診断、アセスメントが必要です。
感覚処理過程の状態を検査するための専門の検査が使用されます。
これはかなり専門的なもので、特殊な訓練を受けた実践家が行うことが必要となります。
スクーターボードを用いた治療
スクーターボードというのは、
要するに上に伏せて使う、スケートボードにも似た板状の遊具です。
たいていの子供にとっては楽しい遊びとなるので、
導入は比較的容易ですが、エアーズの考えるところでは、
まず「スクーターボードで正しく遊ぶことができるかどうか」というのが、
発達の段階を見るための重要な検査の一つとしての意味を持っています。
これをうまく遊ぶことのできない子供は、
感覚統合に何らかの問題を抱えていることが示唆されるわけです。
ボルスターを用いた治療
クッションと布でできた、大きな動く遊具です。
上にまたがって使います。
長さはエアーズによって設定された大きさが決められています。
両端にロープを付けて天井から吊り下げます。
この上で横になることや手足で捕まることには、
やはりいろいろと複雑な感覚統合の処理が必要になるので、
感覚統合の訓練において効果的である、とされています。
プレイセラピーの枠組み
もちろん他にも多くの遊び(プレイ)が、
感覚統合療法の治療(セラピー)には用いられますが、
いずれにせよ、実際に行うのは一時間程度を目途にするのがよい、
というのがエアーズの考え方です。
■感覚統合療法による療育
感覚統合とは、エアーズというアメリカの実践家が考案した考え方であり、
そしてそこからエアーズ自身が考案していった一群の治療体系を指します。
人間の感覚器官の情報処理を適正化するという思想のもと、
実践としては様々な器具や遊具を使った、
「プレイセラピー」の形を取る、というのが特徴です。
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