ABAは、行動主義心理学の中に位置づけられる思想と施療の体系です。
発達障害の療育の場面では、
TEACCHと並んでもっとも広く導入されていますが、
TEACCHとは源流がまったく異なり、基本的な考え方も違います。
行動主義の思想
ここでは簡単に説明するに留めますが、
行動主義というのは、
精神分析、人間性心理学と並ぶ臨床心理学の大きな源流の一つです。
ABAには大きな思想的特徴があります。
もともと、バルラス・F・スキナーという行動主義心理学がいたのですが、
この人物の思想は徹底的行動主義といい、
人間の心はブラックボックスで、不可知の領域あるので、行動そのものを観察し、また行動そのものをある法則に基づいて、コントロールするのがよい。
と説きました。
そのスキナーが作った学問体系の総称を、行動分析といいます。
応用行動分析はこの応用分析を臨床応用するから応用行動分析だというわけです。
この思想そのものの是非や今日的評価については触れませんが、
なにはともあれ、そのような背景のもとにABAは生まれた、というのは、
割と重要な要素になりますので、ある程度以上詳しく理解しようと思うなら、
避けては通れない話になります。
行動分析学の理論
スキナーという心理学者は、オペラント条件づけという概念を創出した人物です。
オペラント条件づけというのは、かいつまんで説明すると
例えば「装置の中にレバーとネズミを置き、ネズミがレバーを押すと餌が出る仕組みを作ると、
ネズミはレバーと餌の関係を“学習”し、レバーを頻繁に押すようになる」というものです。
この原理は基本的には人間にもほぼ変わることなく存在している、というのが、
徹底的行動主義の考え方なのですが、つまり、
よい行動をした子供は誉めることで、
よい行動をより自発させるように導いていく、というのが、
ABAのもっとも基本的な考え方になります。
もう一つ、スキナーの提唱した実践法の中で重要な点があります。
それは「罰」についての考え方です。
これもかいつまんで説明しますが、
罰というものはあまり効果がないので極力子育ての中で行わない方がよい、
というのがスキナーの理論と思想でした。
したがって、ABAでは今でも、
不適応行動などについては、
「無視」することで「強化しない」という方法論をとります。
ちなみに心理学用語ではこの手続きを行動の「消去」といいます。
ABAの実践における技法
ここまでの話は行動主義一般の理論でした。
では次に療育場面で実際にABAの実践者たちはどのような技法を用いるか、
という話をしていきましょう。
プロンプト・フェイディング
応用行動分析の原則は行動の自発を促すことですが、
そうはいっても子供を着替えさせたいときに、
「着替えましょう」と声掛けをするくらいのことはもちろんします。
こうしたきっかけや刺激を、ABAでは「プロンプト」と呼びます。
言語プロンプト、視覚的プロンプトなど何種類かに分類されるのですが、
いずれにせよプロンプトは、
なるべく少なくしていくことがABAの実践においては理想とされます。
それが「プロンプト・フェイディング(プロンプト減少)」です。
つまり最初はプロンプトを用いて行動を促し、
長期的にはプロンプトなしで適切な行動が出現するように仕向けていくわけです。
シェイピング
スキナー自身が提唱した「プログラム学習法」というのがあるのですが、
その中核にあるのがシェイピングという理論です。
「難しい行動を習得させるために、補助的な行動から訓練していく」という内容を指します。
例えば、「一人で風呂に入って身体を洗う」という目的のために、
腕を洗う訓練から始め、足も、首回りも、と増やしていくのがシェイピングです。
チェイニング
さて、シェイピングによって個別的に訓練された行動がそれぞれあるとして、
その行動群をまとまった一つの連なり(チェーン)として、
一貫して行えるようにするための訓練、それがチェイニングです。
タオルを濡らす、タオルを泡立てる、それで身体を洗う、という行為を、
一連の一つの動作として行うことができれば、
風呂に入ることができるようになる……、
そういった考え方であり、またそのための実践をいいます。
トークン・エコノミー
これも行動療法の一種なのですが、ちょっと複雑です。
直訳すると「代用貨幣経済」。
トークンと呼ばれる「御褒美と交換できる代用貨幣」を用意し、
これを行動の強化に使うのがトークン・エコノミーです。
シェイピングやチェイニングと組み合わせると効果が大きくなるといわれています。
ABAと療育
ここまで、スキナーによって創始された、
行動分析学の流れを汲む療育の思想と技法、
応用行動分析について解説しました。おさらいすると、
「心について考えるより、具体的に表出する行動について考える」、
「行動そのものを主にオペラント条件づけを利用して、
コントロールすることで適応的行動を引き出していく」というのがその最大の特徴です。
歴史的背景のために、
ちょっと独特な考え方の癖のようなものがあるのは確かなのですが、
療育実践の上での効果は高く、定評があります。
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