箱庭療法は心理療法の一種であり、また心理査定技法の一種であるともされる、
名前の通り箱庭を作ることを媒介とする技法です。
基本的にありあわせのおもちゃなどでも実践できる上、
何より場所を取らないので低コストで実施できるという強みがあります。
■箱庭療法の歴史
話によると箱庭療法には100年近い歴史があるそうです。
ローエンフェルドという心理学者が、
「床遊び」と呼ばれる英国の遊びにヒントを得て、
1925年、『驚異の箱』と呼ばれるものを考案しました。
数年を経て、これは1929年に『世界技法』と呼ばれるようになりました。
ローエンフェルドの弟子の中にユング心理学者のひとりカルフがいたのですが、
カルフはこの世界技法にユング心理学の理論を持ち込み、さらに発展させました。
こうして生まれたのが『箱庭療法』だったというわけです。
それからさらに数十年後の1965年、
日本の心理学者・河合隼雄がこれを日本の心理学界に紹介しました。
こうして、以来半世紀余り、箱庭療法は日本で広くプレイセラピーの一技法として、
受け入れられるようになっていったのです。
■箱庭療法の具体的実際
箱庭療法はあまり体系化されておらず、
割と自由に行うことができるのですが、
箱の大きさや、中の底を青く塗ること(海や水を演出するためです)、
砂を入れることなどの決まりはあります。
箱庭の決まり
まず、箱の大きさですが、縦横高が57×72×7センチメートルであると、
ローエンフェルドの頃から決められています。
その底を青く塗り、そして清潔な砂を入れます。
これは決まり事ではありませんが、
二色の砂、あるいは粒度の異なる二種類の砂を用いる実践家もいるそうです。
原則的には、砂は湿らせておくのがよいとされています。
別にこれは難しい理屈でそうなっているのではなくて、
そうでないとトンネルを掘ったり山を作ったりできないからですが、
湿った砂を触ることを嫌がる子供もいますので、
そういうときは乾いた砂を使ってもよいです。
要するに、原則論にこだわり過ぎず融通を利かせるのが基本です。
用いる玩具ですが一式セットになって売られているものを使う、
といったような決まりがあるわけではなく、
子供に適した大きさのものが用意できれば割と何でも大丈夫です。
ただ、人間に類する人形などは用いた方がよいと考えられています。
箱の大きさは、縦横高が57×72×7センチメートル。
底は青く塗り、清潔な砂であることが望ましい。
自由度を高める為、原則として、砂は湿らせておくのがよい。
人間に類する人形などのおもちゃを一緒に用意しておく。
箱庭の行い方
「これらのおもちゃを使って、ここに何か作って下さい」と言って始めるのが基本です。
発達障害児も含め、たいがいの人間はこれで箱庭の制作にかかれます。
いちおう、禁止されている行いは静止します。
例えば砂を投げる、などの行為です。
水を汲んできて注ぐ行為は、原則としては許容されていますが、
場合によっては禁止されることもあります。
出来上がったら、作ってみてどうだったか、という程度の質問をします。
上手下手を論じることは原則的に禁忌であるとされています。
色々喋る人もいればそうでない人もいますが、
いずれにせよむやみに掘り下げて聞いてはいけないことになっています。
なお、作られた箱庭は写真に撮って残しておくことが基本です。
真上からと真横から、というのが一般的なようです。
「これらのおもちゃを使って、ここに何か作って下さい」が開始の合図。
砂を投げるなどの禁止行為以外はそっと見守っておく。
作った後は感想を聞くが、それについてむやみに掘り下げるのは禁忌。
記録として真上と真横からの写真を残しておくのが一般的。
■ユング心理学と箱庭
前述のように箱庭療法はユング心理学とともに発展したものですので、
もちろんユング心理学に基づいた独特の分析法というものが存在しています。
存在していますが、それはユング心理学の専門的な訓練を受けた人間でないと、
語ることのできない性質のものですので、ここで軽々しく解説することは、
誤解を招く恐れなどもありますし、差し控えさせていただきます。
ただ、一つ確かなことは、
箱庭をユング心理学的に解釈するには、ユング心理学の専門知識が必要ですが、
箱庭を作らせたからといってユング心理学的に解釈しなければならない、
という決まりは別にないですし、
ユング心理学者以外が箱庭療法をやってはいけないというルールもありません。
基本的には侵襲性の低い技法ですので、実施そのものは割と気軽に行うことができます。
■療育場面での箱庭療法
箱庭療法は、箱とおもちゃを使って箱庭を作ることが行われる、遊戯療法の一種です。
また、心理査定技法の一つでもあるとされています。
実施が比較的容易で、子供にかかる負担なども小さいため、
発達障害の子供に対しては広く用いることができます。
これだけで療育を行う、ということはまずあり得ませんが、
他のプレイセラピーや査定法などとうまく組み合わせて現場では実践されています。
歴史的にはユング心理学の系譜に位置づけられるものですが、
その独占物というわけでもなく、
垣根を越えて多くの臨床家に実践されていることから、
広く知られ、また広く受け継がれる技法となっています。
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