はじめに
発達障害の人には、相手が話した言葉を上手く保持できない傾向が、共通して見られるとされています。
というのは、例えば以下のような症状です。
- 相手が発した言葉は聞き取れているが、その言葉の意味を正しく理解できない
- 相手が伝えたい意味を、はき違えて捉える
- 相手の言葉自体も聞き取りづらく、言っていること自体がよくわからない
これらはいずれも、聴覚短期記憶が苦手であるために生じる、困りごとであるといえます。
一般的にこうした「聞き取りづらい」症状は、難聴と呼ばれています。
難聴は、伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴の3種類に区別されます。
ここでは難聴について詳しくは触れませんが、
いわゆる先天性難聴は感音性難聴に分類され、
中耳炎などで生じる難聴は伝音性難聴に分類されます。
さて、もう1種類、先に述べた発達障害の人に見られる、
難聴に似た症状が、今回こちらで取り上げる、聴覚情報処理障害(APD)です。
ここでは以下、聴覚情報処理障害の症状および対処方法について、ご説明します。
聴覚情報処理障害とは
聴覚情報処理障害(APD)とは、身体的な聴力は正常であるにもかかわらず、
日常のさまざまな場面で、聞いた言葉の内容が理解し辛い状態が生じる障害です。
この聞き取りにくさの原因は、音を収集もしくは感知する機能ではなく、
聴覚情報を処理する、脳の中枢神経にあるとされています。
聴覚処理障害の症状は、音がきちんと聞こえている分、
難聴と診断されることはなく、判断が難しいとされています。
しかしながら、当事者にとっては、
「音は聞こえるが、言葉の処理が脳内でできない」状態が続くため、
「もしかして難聴?」と、聞き取りづらさを感じてしまう症状になります。
ちなみに日本国内で潜在的にこの障害を持つ人は、
推定で240万人にも達するとされており、これは全人口の約2%に相当します。
聴覚情報処理障害の診断
聴覚情報処理障害(以下、APD)の明確な診断基準に関しては、
その原因が十分に解明されていないため、
国内ではまだ、明確に定まっていないとされています。
APDは、脳もしくは中枢神経の問題であり、脳機能の障害、発達障害、心理的要因など、
その原因は人それぞれであると考えられています。
とはいっても、聴覚処理障害を診断してもらえる病院は未だ少なく、
APDの聞き取り検査ができる病院も多くありません。
耳鼻科などでもまだ浸透していない症状であるため、
場合によっては「気のせい」とされることもあるようです。
APDの診断が欲しい場合、「APD 病院」で検索して、
ヒットしたところから順に調べてみることをオススメします。
APDの症状
さて、APDの症状を持つ人には、以下にあげる特徴がみられるとされています。
- 話し手に対して意識を向けているにもかかわらず、「え?」「なに?」などの聞き返しがやたらと多い。
- 簡単な内容を伝えたつもりでも、やたらと誤解が多く、円滑な会話を成立させづらい。
- 大きなBGMが流れているなど、会話以外の雑音下では聞き取りが困難になる。
- 音声(言葉)での指示に対し、速やかに正しく対応できない。
- 指示あるいは要求された内容を一度で把握できず、その都度確認する。
- 似たような言語音(「明日」と「アシカ」など)の弁別、識別が苦手で、聞き誤ることが多い。
- 言語情報が少なくなると、相手の言っていることの理解が困難になる。
- 大きな爆発音に対して笑みを浮かべるなど、聴覚刺激に対して的外れな反応を見せることがある。
- 警笛や危険を知らせる呼びかけなどに無反応など、聴覚的注意が欠如している。
- さっき聞いたことが覚えられない、あれこれ指示されたことが飲み込めないなど、聴覚的記憶力が乏しい。
- 年齢や経験に対し、理解語彙あるいは表現語彙が少ない。
- 文章を読むことや漢字、学習面などに問題が見られる。
- 講義の聴講など、聴覚での学習(知識習得)が苦手である。
- 相手の話の内容がわからない場面が多いため、注意力散漫の傾向が見られる。
- バックグラウンドノイズ(周囲の雑音)の中から、聞き取りが必要な音声を選択できない。
さらなる特徴的な症状として、以下が挙げられます。
- APDとADHD(注意欠如・多動症)を両方持ち合わせている。
- 語学発達への影響から、言語遅延を有していることがある。
- テレビの音や音楽などは、大音量であるほど心地好く感じる。
- 本来聞き逃してはならない重要な音声を、気にとめず、重要とは認識せずにスルーしてしまう。
- 時間の概念を正確に理解することが困難で、常に現在のみを生きており、近未来が把握できない。
勿論、全てが当てはまるわけではありませんが、
いくつか心当たりがある場合は、検査してみるのも良いかもしれません。
APDの対処方法
APDの対処法について、残念ですが、
現時点では、APDに効果が期待される医学的治療法がまだ解明されていません。
一方で、以下のような支援方法が考え出されており、
周囲の人たちの理解と協力にもとづく実践が推奨されています。
周囲の人が、APD当事者にとって話を聞き取りやすい環境の構築に努める
- 周囲の環境音が少ないところで話をする
- 話すときになるべく近寄って大きな声で話す
APD当事者が、相手の話を聞き取りやすくなるような工夫をする
- 当事者が補聴器を用いて相手の話を聞き取る
- 周囲から届く雑音を抑えるためにノイズキャンセラーを利用する
APDを受容したうえで、サポートを行ったり受けたりする
- 聴覚トレーニングを行い、聞き取り力の向上を図る
- 聞き取れなかった言葉の聞き返し方や会話の続け方などを習得する
- 心理的問題に起因する可能性を視野に、専門的なカウンセリングを受ける
まとめ
自分では一生懸命聞き取ろうとしているのに、相手が発した言葉が理解しづらいとなれば、
「まずは耳鼻咽喉科を受診してみるかな?」と、
これが最初の対応であり、間違いはありません。
ところが聴力に問題がないとの診断結果が出たにもかかわらず、
症状が改善されないとなれば、「もしかしてAPDかも?」というふうに、
聴覚処理障害という症状を知っておくことで、
この可能性に気づくことができます。
速やかにAPDを専門とする病院に足を運び、
受診することを通じて、当事者の現状と必要な対応策を、
当事者・周囲の人々ともに、正しく理解する姿勢が大切だといえるでしょう。
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