TEACCHはアメリカで生まれた、
もともとは自閉児とその家族のための支援プログラムです。
「Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children」
これらの頭文字を組み合わせて「TEACCH」といいます。
TEACCHの考え方
TEACCHは単なる治療と矯正のための「技法」ではありません。
そもそも、矯正、という考え方をあまり取りません。
矯正よりも共生。
自閉スペクトラムと健常者が、
「共に暮らせる社会」の実現、というのを理念に掲げています。
ちょっと話が迂回しますが、視覚障害を例にあげて考えてみましょう。
視覚に障害があるからといって、
現代の日本社会で生きていけないということはありません。
視覚障害者も社会に生きる構成者の一員であるという前提のもと、
点字ブロックの存在や、トイレの前を通れば「ここはトイレです」との音声、
白杖を持つことで自分が視覚障害者であることをアピールすることなど、
視覚障害者は様々なアイテムに助けられながら、社会生活をしています。
TEACCHというのは、発達障害というものもこれと同様、
そのままのありようで社会に受け入れられ、
ともに生きていくことができるはずだ、という考え方をするのです。
TEACCHの四つの柱
では次に、TEACCHの具体的な実践について考えてみましょう。
TEACCHの方法論には四つの大きな柱があります。
物理的構造化、視覚的構造化、スケジュールの視覚化、そしてワークシステムです。
言葉はちょっと難しいですが、概念そのものはそんなに難解なものではありません。
一つ一つ説明していきます。
物理的構造化
物理的構造化というのは、要するに空間を機能ごとに切り分けるということです。
ごく簡単な例をあげると、ふつう、
食事をするところとトイレは別の場所にあるわけですが、
これも一種の物理的構造化であるといえます。
特に自閉児の場合、周囲の環境から読み取れる情報が少ないと不安などが生じやすいです。
したがって、どこの空間がどういう目的や機能を持った空間なのか、
分かりやすくすることによって彼らの不安を低減し、問題行動を減らしていきます。
具体的には、四つの活動エリアを構築することが多いです。
作業や勉強をするための「ワークエリア」、
遊んだり気持ちを落ち着けたりするための「プレイエリア」、
スケジュールを張り出したり移動の際に用いたりする「トランジションエリア」、
そして特別な興奮状態が生じた場合などに落ち着くための「カームダウンエリア」です。
視覚的構造化
これも日本語だと何やら小難しいのですが、原理はものすごく単純です。
外にあるトイレはたいがい、男女それぞれマーク分けされています。
病院があれば、大きく十字が書かれています。銭湯に行けば銭湯のマークが描いてあります。
これが視覚的構造化です。特に言語能力の障害が強い自閉児に対しては、
環境の中に積極的に視覚的構造化を導入していくことが有効です。
これは「実物」でも「絵やイラスト」や「写真」でもよく、
場合によってはただ文字で「ここはママのお部屋」などと書いておくだけでも、
コミュニケーションの整理として大きな効力をもたらす場合があります。
スケジュールの視覚化
「いま、ここ」という言葉によって象徴されるように、
自閉児は健常者とは異なる時間感覚の中を生きている、といわれています。
したがって、スケジュールを明確化しておくことが共生をはかる上で有効です。
ここでも視覚的構造化と似た手法が用いられ、
例えばイラストを添えてカレンダーを作っていく、達成した課題にシールを貼っていく、
そういったような形で、
スケジュールの構築と消化を「視覚化」することが療育となるのです。
ワークシステム
自閉児はとかく、時系列に沿った行動のコントロールが苦手です。
それを整理し、本人に伝達していくのがワークシステムです。
「いまからどんな活動、つまり学習や作業などを行うのか」
「それはどれくらいの時間、どれくらいの量にわたって行われるのか」
「それはいつ終わるのか、終わったあとはどうするのか」
「次の学習に移るのか、それとも自由行動をしてよいのか」……などなど
そういった情報を発達障害児と共有していくことをはかるのが、
ワークシステムの考え方です。
改めて、TEACCHとは
まず、基本的には「発達障害児の世界、考え方」に寄り添っていく、
というスタンスを取ること。そして、必ずしも特定の思想的立場にはこだわらず、
柔軟に様々なアプローチを取ること。そして、
何より「個々の子供に対して」理解と共感を向けていくこと。
これがTEACCHというものである、といえます。
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