はじめに
場面緘黙(ばめんかんもく)。
読み書きにも戸惑ってしまうこの4文字ですが、
実は私たちの身近な人や、自分自身にも当てはまるかもしれない、
精神疾患とされる症状のひとつです。
「学校の教室内で先生に指名されると、一言も発せられなかった」
「職場の会議や取引先の人と向き合うと、全く喋れなくなってしまった」
「緊張を強いられる場面になると、全身が固まってしまう」
など子どもの頃に発症するケースが多く、
一昔前は性格上の問題だとみなされてしまい、
適切な治療方法も確立されていませんでした。
その結果、学校を卒業した後に職場など働く上で、
辛い思いを抱えた人たちが少なくないとされています。
ここでは以下、場面緘黙・緘動(かんどう)について解説します。
場面緘黙とは
「緘黙(かんもく)」は症状によって、以下の2つに分類されます。
全緘黙=選択性緘黙とも呼ばれ、すべての生活場面において、話すことができない。
場面緘黙=特定の状況下に置かれた時にのみ、話すことができなくなる。選択性緘黙とも呼ばれる。
場面緘黙の場合、
たとえば家庭内などのリラックスできる場所では、普通の会話が可能です。
「家族以外の人物とは話せない」というのが典型例で、
一歩家の外へ出ると途端に無口になってしまう症状の人たちが多くいます。
したがって、対人関係に大きな緊張感を覚えてしまうことが、
原因の1つであると考えられています。
★原因が性格によるものとの誤解
場面緘黙はまったく話せないわけではないため、
「わざと話そうとしない」など、性格的な問題であると誤解されることがあります。
しかしそれは違います。
場面緘黙の症状がある場合、
自分から発言する場面を第三者に見聞きされることに対し、
大きな不安感や恐怖感がぬぐえず、
「話がしたいのに声が出ない」、「意見を伝えたいのに言葉にできない」など、
どれだけ頑張っても話すことができず、
周囲だけではなく本人の困り感も大きいとされています。
★発症メカニズムは研究段階
現在、場面緘黙の原因やメカニズムに関しては、
まだしっかりと判明しておらず、研究が続けられています。
研究段階ではありますが、
「緊張しやすい」「不安を覚えやすい」などの要因に、
心理的・社会的・文化的要因が複合的に影響することで、
発症につながるのではないか、と考えられています。
子どもの時期に発症する比率が高い理由として、
入園・入学による生活環境の変化、
いじめを受けたことによる精神的圧迫、といった理由が挙げられます。
不安感が急激に高まったことが引き金となり、発症してしまうメカニズムです。
★大人の場面緘黙
稀なケースですが、成人後に場面緘黙が発症する事例も報告されています。
これは子どもの頃からの症状が見過ごされたまま、
成人後も症状が持続し、職場などでようやく周囲の人たちが気づくパターンです。
上司や同僚との意思疎通が上手にできない、会議の席で発言できないなど、
業務に支障が生じる場面が散見されることから、
場面緘黙ではないか、と疑われることがあります。
場面緘黙の症状
特定の状況下に置いてのみ話せなくなる場面緘黙は、
別名、選択性緘黙とも呼ばれており、次のような症状が見られます。
また生活環境の違いから、
子どもと大人にみられる症状に関しては、複数の相違点が確認できます。
★小・中・高校生に見られる症状
家庭とは違い、
緊張や不安を覚える場面が避けられない学校という空間は、
場面緘黙が生じやすい環境と言えます。
具体的には以下のような症状が挙げられます。
- 授業中に手を挙げられない
- 先生に指名されても発言できない
- 教科書の音読ができない
- トイレに行きたいことが伝えられない
- クラスメートと自然なコミュニケーションができない
- 体育の授業で思うように身体が動かせない
- 集団行動では目立たぬように存在感を消そうとする
★大人に見られる症状
大人の場合は日常生活に加え、
とりわけ職場という緊張感が伴う空間で、場面緘黙が生じる確率が高まります。
具体的には以下のような症状が挙げられます。
- わずかな状況の変化に対しても、不安感や緊張感を覚えやすい
- 上司や同僚からの問いかけに答えられない
- 緊張のあまり、書類提出など業務上必要な行動ができない
- 指示された業務内容が理解できないにもかかわらず、質問や確認ができない
- 会議の席で発言ができない
- 同僚や取引先関係者との雑談の輪に入ることができない
場面緘動とは
場面緘黙に付随して見られる症状として、場面緘動というものがあります。
これは話せなくなると同時に、思うように身体が動かせなくなる症状です。
極度の緊張感と不安感に包まれるため、
立ったまま、もしくは座った姿勢のまま、
硬直状態に陥ってしまうケースも見られます。
場面緘黙の治療
場面緘黙が疑われる場合には、
精神科もしくは心療内科を受診し、専門家に相談の上、
適切な治療を受ける対応が大切です。
特定の場面で発言ができない原因が、
場面緘黙なのか、他の疾患であるのかを、
自身の素人判断だけで結論づける行為は危険だといえます。
また場面緘黙には、発達障害やうつ病が併存している可能性も考えられますので、
それぞれに適した治療が必要です。
受診に際しては、それらに詳しい医師・心理士・言語聴覚士などが対応してくれる、
専門の医療機関に相談しましょう。
まとめ
場面緘黙は、先天的な要因に複数の外因が複雑に絡まり発症する、
特定の場面で発言することができない疾患です。
改善を焦ってしまうと。本人を精神的により追い詰めてしまいかねず、
焦らず段階を踏んで治療を進める対応が求められます。
発達障害が併存している可能性があり、
専門の医療機関で場面緘黙と診断された場合には、
発達障害者支援法の支援を受けられます。
「性格によるもの」と決めつけるのではなく、
周囲や本人の困り感に応じて、専門の医療機関を受診してくださいね。
コメント