はじめに
私たちの誰もが、精神的なストレスが一線を越えてしまうと、
感情のコントロールが難しくなります。
外部からの刺激や環境の変化に敏感な、
自閉圏など発達障害の人たちは、
こうした状況から、パニックや癇癪(かんしゃく)を起こしがちだとされています。
このような悪循環に陥る前に落ち着きを取り戻す空間が、カームダウンスペースです。
ここでは以下、発達障害などの人に対する合理的配慮として注目されている、
カームダウンスペースについて解説します。
カームダウンスペースとは
カームダウンスペースとは、
感情の高ぶりやストレスの蓄積が見られた際に、
落ち着きを取り戻し、元の状態に戻るために設定する空間です。
パニックに陥った際に連れて行く場所ではなく、
あくまで混乱を未然に防ぐ、平静を取り戻すためのエリアです。
精神的ストレスが爆発寸前の状態に追い込まれると、
誰もが外部からの刺激を遮断できる、自分だけの空間を欲して当然です。
周囲からの励ましや慰めの一言で、
ギリギリの心の糸が切れてしまった経験は、多くの人が持っていることでしょう。
発達障害をもつ人にとっては、
些細な出来事や環境の変化で、
この状態に追い込まれるケースが避けられません。
カームダウンスペースは、日常生活の中で落ち着くための空間です。
設定上の注意点
先にも触れた通り、カームタウンスペースは、
パニックや癇癪状態に陥った際に当事者を連れて行く場所ではありません。
この大切なポイントを、誤解釈したまま活用を始めてしまうと、
「隔離部屋」「パニック部屋」「癇癪部屋」の位置づけとなってしまいます。
混乱した当事者を一時的に隔離し周囲の人たちが平静を確保する、
そういった誤ったメリットが優先される活用法では、効果が期待できません。
あくまで「パニック・癇癪発症を未然に防ぐ」目的で設定すべき空間です。
パニックを生じる度にカームダウンスペースを利用する習慣がついてしまうと、
当事者の中でその場所が「パニックエリア」と位置づけられてしまいます。
そういった意味でも、このポイントはきちんと押さえておきましょう。
クールダウンとの違い
カームダウンスペースの設置に際し、
関連知識として正しく理解しておきたいのが、
「クールダウン」との違いです。
同義語・類似語と解釈されることが少なくありませんが、
これらを混同してしまうと、スペースの適切な活用に支障が生じかねません。
正しく理解して、カームダウンスペースを利用してください。
さて、クールダウンとは、
何らかの方法で興奮状態を落ち着かせる行為を指す言葉です。
火照った身体を落ち着かせるなどのスポーツシーンから、
ディスカッションの現場などビジネスシーンまで、幅広く用いられています。
「熱や高ぶった感情を冷ます」「冷静になる」と言い換えられます。
対してカームダウンは、英語の「calm down」をカタカナ表記した言葉です。
「気持ちを落ち着かせる」と言い換えられますが、
クールダウンとは異なり、身体面ではなく、パニック・癇癪など、
感情面に関して用いられます。
具体的設定例
カームダウンスペースには、
大勢の人にとって見本や模範となる、共通した設計図的なものは存在しません。
当事者の性格や特性に合わせ、自宅内の空きスペースや、
家具などの配置換えで確保した一角に設定するとよいでしょう。
キャンプの際のテントの小型版、
もしくは四方をカーテンで覆われたくつろげる試着スペース、
そういったものなどをイメージしてみましょう。
仰々(ぎょうぎょう)しく仕切られた隔離部屋ではありません。
幼子が条件反射的に、母親の懐や背中に回り込んだ際に確かめられる「安心感」を、当事者が得られる空間であることが重要です。
中に入ると、仕切りを隔てて室内よりも薄暗く設定するのもポイントです。
明るく感じられる照明は当事者にとって刺激と感じられ、興奮状態につながります。
また当事者が愛用している、執着を感じているグッズを準備するとよいでしょう。
幼い頃からお気に入りのタオルやぬいぐるみなどの柔らかいグッズであれば、
仮に自傷などのパニックを引き起こした場合でも、
周囲の人の目が届かない状況でも、安心して設置することができます。
当事者が一時的な気分転換に興じられる、ゲームや本などでもかまいません。
カームダウンスペースの設置が完了したら、製作者自身も中に入ってみましょう。
自らが「落ち着ける」「自分用も確保したい」と感じられる空間づくりがポイントです。
「このままではパニックや癇癪が避けられない……」
カームダウンスペースは、
こうした状況下の当事者が、速やかに安心して独りになれる空間です。
まとめ
日本と比較して発達障害の人に対する理解と対策が進む海外では、
多くの公共施設内に、カームダウンスペースが設置されているようです。
国内でも成田空港や新国立競技場などに設置されていますが、
まだまだ私たちの日常行動圏内では、簡単に遭遇出来ないのが現実です。
学校内の自習室や保健室も、
ある意味カームダウンスペースの役割を担っています。
当事者が一番落ち着ける自宅に、同様の空間を準備することで、
家族全員の生活そのものにも、多くのメリットが期待できます。
これまで「カームダウン」という言葉をご存知なかったのであれば、
この機会に早速そういったスペースの設置を検討されてみてはいかがでしょうか?
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