■はじめに
IQという言葉は誰でも御存知だと思いますが、
このIQというのは具体的に何のことで、
どうやって測るのか、ということになるとちょっと話が難しくなります。
言われてすぐに説明できる人はきっと多くないことでしょう。
IQとは、端的に説明するのであれば、
知能検査によって測定された総合的な測定値のことです。
そして知能検査には、具体的にはビネー式とウェクスラー式の2種類が主に知られています。
発達障害の診断をする際によく使われる、
ウェクスラー式(WAISやWISC)をここでは以下、ご紹介します。
■ウェクスラー式知能検査の始まり
1939年、ニューヨークのベルビュー病院で心理臨床を行っていたデイビッド・ウェクスラーは、
個人の「知能」を診断するための検査技法として、
「ウェクスラー=ベルビュー知能検査」を開発しました。
これがウェクスラー式知能検査の始まりです。
この検査は、もっとも歴史のある知能検査であるビネー・テスト(ビネー式)と並ぶ、
知能検査法のスタンダードの一翼を担うに至り、
その後数十年の歳月の中で、さまざまな改定を加えられることになりました。・WAIS
ウェクスラー・アダルト・インテリジェンス・スケール、つまり「ウェクスラー式成人知能検査」のことです。
1955年に、ウェクスラー=ベルビュー知能検査を成人用に改訂することで作られました。
1958年には日本にも導入されています。
その後もマイナーチェンジが繰り返され、現在のバージョンは「WAIS-Ⅳ」となっています。
WISC
ウェクスラー・インテリジェンス・スケール・フォー・チルドレン。
お察しの通り、「児童のためのウェクスラー知能検査」です。
こちらは1949年に作られました。
基本的な考え方そのものはWAISと同じですが、
児童の知能を検査するニーズは高いので、非常に広く普及しています。
WPPSI
あまり知られていませんが、こちらは乳幼児を対象として作られたウェクスラー・テストです。
対象年齢が低すぎて実用的ではないとする意見もありますが、
一応日本でも実用化されて今日に至っています。
ウェクスラー検査で何が分かるか
ウェクスラーテストも知能検査の1つですので、
「この人のIQはいくつ」という数字を割り出すことができますが、
それは必ずしも重要な要素ではありません。
むしろ、「下位プロフィール」と呼ばれる、
IQの下に来るそれぞれの分析項目に、より重要な意味があります。
WAIS-IVでは、主な下位項目が4つあります。
VCI(言語理解指標)、PRI(知覚推理指標)、
WMI(ワーキングメモリー指標)、そしてPSI(処理速度指標)です。
VCI(言語理解指標)
VCIは、語彙力、言葉でものごとや概念を説明する能力、などを指しています。
古い言葉では結晶性知能とも言っていました。
これが得意な人間は、言葉で説明をまとめるのが上手い傾向にあり、
逆にこれが弱い人間においては、言葉の意味を正確にとらえることができず、
コミュニケーションに齟齬をきたしている可能性などが示唆されます。
PRI(知覚推理指標)
視覚から入った情報を処理し、それを整理して推論するための能力です。
古くは流動性知能などとも表現されていました。
いわゆる「ひらめき」の力などもここに入ってくるともいわれています。
これが得意な人間は、ものごとを論理的に考えるのが得意で、数学の図形問題なども得意だといえます。
また、空気を読む力がある、というような性質もここに含まれます。
ただし、この点が低いからといって、即、論理的な思考が苦手だということになるわけではありません。
それは「論理的な思考の速さ」を測定する性質の指標であるためです。
WMI(ワーキングメモリー指標)
こちらは聴覚から入った情報を記憶にとどめたり、整理したりする能力を測るための指標です。
これが得意な人間は、暗算が得意で、短期的にものごとに集中する能力に長けています。
逆に、ここに苦手がある場合、電話の応答や、
口頭で指示を受けることなどに困難を抱えるケースが見受けられます。
PSI(処理速度指標)
その名の通り、単純な作業を素早く正確に行う力のことです。
マニュアル通りにひたすらデータの入力を行うであるとか、
あるいは学校でノートを書き写すとか、そういった能力に関係する指標です。
これが得意な人間は、上記のようなスピードが速く、
逆に苦手な人間は、平均よりもそういった作業の速度が遅かったり、
あるいは速度は出せてもミスが多かったり、といった困難を抱えるといわれています。
■まとめ
ウェクスラー・テストは知能検査ですが、
知能検査というのは学力テストとは異なりますので、
「高ければよく、低いのはよくない」というほど単純なものではありません。
とりわけ発達障害の事例を理解するために導入する場合は、
知能のどの部分に問題や困難を抱えているか、ということが特に重要となり、
また「この項目は特に高い」というのが留意点となってくる場合もあるのです。
IQは指標として出されますが、あまり重要視されないのはこのためです。
むしろ、先述した4つの下位項目と、そのまた下に広がる下位プロフィールが、
当事者の特性を読み解いていくうえで重要なキーを担っているといえます。
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