はじめに
「パニック」という表現は、さまざまな場面で用いられる、
私たちにとって身近な言葉となっています。
「本命の彼との初デート、待ち合わせ場所がわからなくて、
もうパニック寸前で、生きた心地がしなかったわ」
この例は、当時の本人にとっては絶体絶命ながらも、
振り返れば微笑ましいパニックでしょう。
処理能力を大きく超えた作業ノルマを課せられ、一同パニック状態寸前でした
こちらは、工場の生産ラインなどで聞かれる、
平常心との闘いを「パニック」と表現した一例です。
【平常心を失うほどに混乱した状態】――これをパニックといいます。
誰もが経験した記憶を持つ、アブノーマルな精神状態です。
そしてこのパニックは、それなりに追い詰められた状況に陥らない限り、
基本生じることのない症状とされています。
しかしながらこの「パニック」に、
時と場所を選ばずに襲われてしまう人たちが、
私たちの身近に存在しています。
パニック障害などの精神疾患もありますが、
ここでは自閉スペクトラム症のパニックについて、
さまざまな視点から検証していきたいと思います。
パニックとは
まずは今一度、パニックという言葉が指す意味と状況を確かめておきましょう。
パニックとは、なんらかの原因で感情や行動などの自制が困難となり、
心身が混乱した状態を指す言葉です。
不安・怒りなどの負の感情が許容範囲を超えて膨らんでしまい、
平常心を失ってしまう状態です。
癇癪(かんしゃく)・突然号泣・自傷あるいは破壊行動などに及ぶケースも見られます。
対して大好きな対象や行動に興奮を覚え過ぎたことで、
自らの行動が抑制できなくなるケースも、パニック状態の1つのパターンです。
さらには思考や感情がフリーズしてしまう、内面が停止してしまう症状も、
パニックの範疇に含まれます。
パニック時に見られる行動
- 大声で叫ぶ
- 繰り返し同じ言葉を発する
- 支離滅裂な暴言を吐く
- 突然暴れ出す
- 物を投げたり蹴ったりする
- 自身の体を叩いたり腕を噛んだりする
- 身体が固まってしまい、動けなくなる
- 言葉が発せなくなる
などが見られます。
パニックの原因
自閉スペクトラム症の人の多くは、
視覚・嗅覚・味覚・触覚過敏の傾向が顕著なため、
些細な環境の変化に対しても、大きな負の感情が避けられません。
障害を持たない人であれば何の不快感も覚えない環境も、
障害を持つ人にとっては、心身のストレスとなってしまいます。
ここに、自らの情報処理能力を超えた何らかの外因が重なれば、
蓄積したストレスが暴発してしまいます。
こうした第三者には理解しづらい、
ストレスや不安・不満などが増幅する悪循環が、
パニックを引き起こす原因であると考えられています。
パニックの引き金
以下のような場合に陥ったとき、
自閉スペクトラム症の人たちはパニックに襲われる確率が高くなるといえます。
- 未経験の新たな場面の遭遇、突発的な変更、見通しが立たず不確実なとき
- 感覚の特性のため、不快感が苦痛となった状況を回避もしくは対処できないとき
- 疲労や体調不良が自身の限界を超え、心身の状態が著しく不安定なとき
- 自分なりの拘り・マイルールが維持できない状況に置かれたとき
- 過去にストレスを感じた記憶がフラッシュバックしたとき
パニックへの対応
パニックの原因や生じやすい環境は、当事者それぞれによって異なります。
とりわけ感覚特性やこだわりは、
パニックの引き金となる原因として見過ごせません。
自身にパニック障害の傾向が見られる場合には、
冷静に自身の特性を踏まえ、未然にリスクを回避する対応が、
パニック予防策につながります。
同時に周囲の人たちも、パニック発症を抑制すべく、
引き金となる特性の理解と配慮に努める必要があります。
パニック発症時の基本的対応
安全確保
周囲に居合わせた人と、パニックを発症した当事者双方の安全を確保しましょう。
破壊行為に及ぶ場合を想定し、
近くにあるケガや事故につながる危険物を、
当事者から遠ざける初期対応も大切です。
自傷行為に及ぶ当事者に対しては、
タオルやクッションなどで身体をガードしましょう。
症状が治まるのを見守って待つ
多くのパニックは数分から数十分で治まります。
周囲の人たちが混乱し、奇異の視線を投げかけてしまうと、
これらが余計な刺激となり、パニックを増長させるリスクが否めません。
当事者が落ち着きを取り戻すまでは、
可能な限り刺激を与えない環境を整え、見守って待つ姿勢が望まれます。
当事者が落ち着きを取り戻したなら話を聞く
落ち着きを取り戻したのを確かめ、ねぎらった上で話を聞きましょう。
当事者にもパニックの原因がわからない場合には、
話の内容から、冷静に原因を推察しましょう。
表面上は冷静に見えたとしても、
精神状態は興奮したままの場合もあるので、問い詰めるような対応は慎みましょう。
当事者に負の感情を吐き出させることで、
本人を落ち着かせる対応を心がけましょう。
無理に止めるのは逆効果
先に述べた通り、
パニックは当事者が自身を自制できない、いわゆるアンコントローラブル状態です。
これを強引に抑制する対応は、
当事者をさらに精神的に追い詰めてしまい、
状況を悪化させる展開につながりかねません。
以下の慎むべきNG行動を、正しく理解しておきましょう。
- 周囲の人物が大声で叱責する
- 自傷の意思がないのにもかかわらず強制的に動作を抑制する
- 無理矢理説得してなだめる
- パニックの原因を繰り返し問いただす
まとめ
自閉スペクトラム症のパニックには、
感覚過敏や独自のこだわりなど、
当事者それぞれの感覚特性が、大きく関連していると考えられます。
周囲の人たちには、
パニックの引き金となる要因を理解し、予防に努める配慮が望まれます。
起きてからの正しい対処法を知るだけでなく、
起きないための対応を心がけることが、パニック回避の重要な鍵となります。
コメント