はじめに
言葉を上手に発することができない吃音症とは、最初の一声が詰まる、
同じ一音を繰り返してしまうなどの、言語障害のひとつです。
吃音症は、身体能力上の障害として以前から周知こそされていましたが、
必ずしも正しく認識されてはいなかったことも、残念ながら事実としていえます。
一昔前までは、「真似をするとうつるからやめなさい!」などと大人が注意する場面や、
当事者がからかわれるケースが、あちらこちらでみられました。
昨今でも「きちんとしゃべるように」と叱責されるなど、
吃音症が障害であることに対しての理解は、正直十分とはいえません。
ここでは、吃音症とはどのような障害なのか、読者の皆様に理解していただきたく、
その詳細を解説していこうと思見ます。
また同時に、その治療法や克服について、
さらには周囲に求められる接し方などに関しても、一緒に考えてみたいと思います。
吃音症を正しく理解しよう
吃音症の人の話し方にみられる主な特徴は、以下の通りです。
その程度には個人差がみられ、「単なるあがり症かも」などと、
大人になるまで自身や周囲が気づかなかった事例も、多数伝えられています。
連発
一節もしくは1つの単語の1音、もしくは一部を繰り返してしまう
「お、お、お、おはようございます」
「そ、そ、そこを曲が、曲が、曲がってく、く、ください」
伸発
単語の不要な箇所を引き伸ばしてしまう
「けーーーいたいでんわ(携帯電話)」
「じーーーてんしゃ(自転車)」
ブロック
第一声が詰まって発せられない
「…………あ、あ、あの、あの、あのですね」
「…………っ、っ、んっ、…………っ、んそっ、そ、そうです」
症状が重い(難発)の場合、
言葉を絞りだそうと表情が歪む、全身に力が入る、身体が動いてしまうなど、
随伴運動とよばれる症状がみられることもあります。
また、連発→伸発→ブロックの順に症状が進行する、とも報告されていますが、
すべてがこの限りではありません。
医学的治療法および自己改善法について
先にお話しした通り、吃音症の主な原因や症状の程度は人それぞれです。
すべてが先天性の発達障害でも、後天的な心因性のものであるとも限りません。
より多くの人たちに効果が期待できる、医学的治療法の研究が進められていますが、
現段階では明確な確立には至っていません。
治療法の研究に関しては、現在進行形というのが実際のところですが、
それでも落胆することはありません。
吃音症を一気に改善克服することは、当事者にとって難題ですが、
自分なりに工夫することで、症状を軽減することは可能でしょう。
例えば次のような習慣の実践で、
「自分は吃音症です」とシグナルを送りつつ、
よりスムーズな会話に努めてみるのは、いかがでしょうか?
実践①
「ワン、ツー、スリー」といった具合に、第一声を発する前に、心と体でカウントをとる。
バンドが楽曲を演奏する前の、ドラムのカウントの要領です。
目の前の人から「おはよう、今日は早いね」と、突然話しかけられた、としましょう。
吃音症の人は、相手の発言をキャッチして、瞬時に言葉を投げ返すことが苦手です。
野球にたとえるなら、グラブでキャッチしたボールをすばやく持ち替えることも、
コントロール良く送球もできず、その場で立ち尽くしてしまう……そんな状況です。
「お手玉」と呼ばれる、あわててグラブの中でボールを暴れさせてしまい、最悪その場にポロリ、もしくは悪送球となる展開が、吃音となってしまうメカニズムと重なります。
この悪循環を避けるために、一刻も早く「アウト」を取りに行こうと焦らず、
ゆっくりとボールを握り直し、ひと呼吸おいてから送球先を十分に確かめ、
無理のない球速で投げれば、最終的にキチンと相手に届きます。
- 「おはよう、今日は早いね」といわれたら、その時点で小さく1回深呼吸
- 次に片手の指先で、「ワン・ツー・スリー」と、自分にとって心地良いテンポを確認
- 続けて焦らずに「おはよう」の「お」における発声方法を同じく自身のテンポで確認
- 自らカウントしたリズムに、「お」の第一声を発するタイミングが合ったところで、
「おはよう」と声にする
最低でも数秒を要しますが、これが日常となれば、
吃音症を克服しようと一生懸命努力している姿勢に、気づいてもらえることでしょう。
相手の理解と歩み寄りが得られれば、
2人の間にとってベストな会話のテンポが、次第に無理なく確立されていきます。
高齢者や幼い子どもに対しては、ゆっくりと聴き取りやすい声で話しかけますよね?
それと同じです。
吃音症の人との言葉のキャッチボールに際して、
相手が急かすことなく、言葉が返ってくるのを待ってあげられる。
吃音症の人も、より正確なコントロールで、少しでも早く言葉を返球できるよう、
自分なりの克服法を模索して、積極的に実践してみる。
いかがでしょうか?
実践②
心拍数の上昇を抑える薬の服用
吃音症の人の克服体験談の中には、
心拍数の上昇を抑える薬を服用している、と、当事者が語る内容がみられます。
仕事上どうしても重要な会話を交わさねばならない場面など、
失敗や失礼が許されない場面においてのみ、薬で調子を整える……、
吃音症の人にとっては、ある意味切り札的な、ひとつの改善対応策でしょう。
但し、その服用には注意も必要です。
医薬品に頼る対応策に関しては、色々な意見があると思われますが、
当事者の心身の負担の軽減効果が大きく期待されるという点で、
特効薬的な役割を果たしてくれている事実は確かにあります。
しかしながら、服薬においては、自己判断での多用から常用となってしまわぬよう、
必ず主治医の指示に従い、必要最低限の服用にとどめるといった、
強い意志が服薬者本人に求められます。
吃音症の当事者がまだ幼い場合は、
周囲の人たちで服薬管理をしっかりしてあげてくださいね。
まとめ
吃音症は、内部障害の中でも表出しやすい障害です。
吃音は、隠すということが難しい症状でもあります。
しかし実社会のさまざまな場面では、
吃音症の人に対し、どのような配慮をすればいいのか、
お互いに話し合う時間を取ることがなかなかできません。
理不尽に笑われる、あるいは注意されてしまう、
そういった負のループから二次障害を発症してしまう人もいます。
健常者でも同じことがいえます。
誰もが緊張する場面では、一気に心拍数が上がり、
最初の一言が喉元でひっかかってしまうのではないでしょうか?
「今から数百人の前で、このテーマで10分間スピーチしなさい!」
と、突然上司から指示されたとき、余裕を持って対応できますか?
おそらく無理でしょう。
吃音症の人にとって、誰かと会話を交わす際には、
これに匹敵する大きな緊張感が伴うといえます。
周囲の人たちの理解は、
吃音者の人を甘やかすことでも、えこひいきでもありません。
また吃音症の人自身も、遠慮せずに色々と提案することで、
自身をとりまく環境の改善に、努めてみてはいかがでしょうか?
仕事の場であれば、最小限の会話で対応が可能な作業を通じ、
職場に貢献するのも、ひとつの選択肢でしょう。
そのためには、自分ひとりで克服に努めるだけでなく、
信頼できる人にカミングアウトすることも、視野に入れてみましょう。
「自分なりの話し方でいい」――そう思えるように、
吃音症と上手に付き合っていけるように、心から祈っています。
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