認知行動療法は心理療法の一種であり、その主流となっているものです。
名前の通りなのですが、その源流には行動療法というものがあり、
その発展形として、心理療法の歴史の中に現れたのが認知行動療法です。
■認知行動療法とは何か
そもそも心理療法とは何かということを言えば、
心理的な困難を抱えた個人に対して施される治療のことですので、
もともと認知行動療法も、
児童や発達障害のための治療法として創案されたものではありません。
最初期(具体的には、今から半世紀ほど前です)には、
抑うつやストレス反応など、ごく限られた治療目的のためにしか用いられていませんでした。
しかしその後、認知行動療法の枠組みで総称される様々な技法が、
次々に出現するようになり、
またその治療対象、あるいは適用対象も拡大していきました。
現在では、療育の現場にも導入されるようになっています。
■認知行動療法とはどのようなものか
前述のように、認知行動療法は総称なので、
実態としては、認知行動療法に分類されるさまざまな技法群によって構成されています。
そのすべてについて、詳しく述べていくことはしませんが、
例えばベックの提唱した認知療法、エリスの合理常道療法、
スインの不安管理訓練、ネズの問題解決療法、
マイケンバウムのストレス免疫訓練、ラザラスの多面的行動療法、などがあります。
大雑把に、認知行動療法とはつまりどういうものかといえば、
その前身である行動療法が「行動」のみに着目し、
「こころ」というのは分からないものであるから関与しない方がよい、
という態度を取ったのに対し、認知行動療法では、
「こころ」すなわち「認知」、
もっと簡単に言えば「考え方や心の中の態度」を変容させることが心理治療においては有効ではないだろうか、という考え方をします。
認知が変われば行動も変わる、
行動だけに着目するよりも考え方を変えるように働きかけた方が、
現実的で合理的だろう、というわけです。
■療育における認知行動療法の実際
こういう問題を考えてみましょう。
発達障害で、バスに乗るべき場面でそれを嫌がる子供がいるとします。
まず、どう考え、どうするべきでしょうか。
これは認知行動療法に限った話ではありませんが、
心理療法にせよ療育にせよ、最初にやるべきことは「アセスメント」です。
端的には、この子供はどういう子供で、
どういう理由からこのような問題が生じているのかを、
個別的・事例的に考えていく、ということです。
LDの場合
さて、御存知のように主な発達障害には三つあります。
自閉スペクトラム、ADHD、学習障害(LD)です。
例えばこの子供は学習障害である、という診断が既にあり、
バスに乗れないという問題があるとしましょう。
LDの場合、論理的な考え方が下手で、
飛躍した、偏った考え方をしてしまう子供がいます。
したがって、その考え方を解きほぐす療育支援をするのがよいでしょう。
ただし、認知行動療法はLDにあまり有効ではないとする見方もあります。
ADHDの場合
次に、ADHDの診断が下りているというケースについて考えてみます。
ADHDの子供は、じっとしていることが苦手ですから、
バスのような「じっとしていることを要求される場面」がそもそも苦手です。
バスに乗ると怒られるから自転車がいい、と思って、
その子供はバスを嫌がっているのかもしれません。
認知行動療法は認知や考え方に関する治療法ですから、
まずはその子供の認知の内容を知っていくこと自体が、
重要な療育的アプローチとなっていきます。
自閉スペクトラムの場合
では自閉スペクトラムの場合について考えてみます。
自閉圏の子どもはスケジュールについて強いこだわりを持っていることが多いです。
例えば、「今日は時間がないからバスで行くことにする」と親に言われて、
バスに乗せられそうになった場合などに、強い拒否反応を示すことがあります。
それが繰り返されたことによって、
バスそのものを嫌がるようになってしまったのかもしれません。
アスペルガー症候群と呼ばれた症状群、
つまりは知能に大きな問題のない自閉スペクトラムの場合でも、
「自分はこうしなければならない」という強いこだわりが、
問題行動の核になっていることが多々あります。
■認知行動療法による介入
いずれにせよ認知行動療法では、
社会的な要請に対して生じるずれが、
どのような認識や心理的態度に基づいて生じているかということを分析し、
その考え方のずれを是正していくことで、
行動面において生じるずれも修正していこう、というアプローチを取ることになります。
なお、実践面においては、
他の治療技法や療育技法と組み合わせて導入されることが多いといえます。
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