はじめに
ADHDという言葉をご存知でしょうか?
最近SNSなどで目にする機会が増えたのではないかと思います。
本記事では ADHDの「不注意」「多動」「衝動」に焦点を当て、
当事者が困りやすい場面と、その具体的な対策について深掘りしようと思います。
ADHDとは?
ADHDは、発達障害の症状の一つです。
発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、
幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態を指します。
大人になって会社で働き出してから気づく場合もあります。
発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性、衝動性)、
注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。
多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合は混合型、
いずれか一方が認められる場合は不注意型又は多動・衝動型と呼ばれます。
ADHDの原因は詳しく分かっていませんが、
大脳にある前頭前野の機能調整が偏っていることや、
脳内の神経伝達物質が不足していることが関わっているとされています。
「不注意」「多動」「衝動」それぞれの症状例
①不注意の症状例
- 好きなこと・興味のあることに対しての集中力が高く、他のことへの切り替えが難しい
- 学業や仕事の場面で、細かいところまで注意を払うことが苦手で、不注意による間違い・失敗が多い
- 学業や仕事に必要なものをなくしてしまったり、約束や期日を忘れたりすることが多い
- 物事を計画立てて進行する時間管理や、整理整頓をするのが難しい
②多動の症状例
- 落ち着きがないと指摘されることが多くある
- 夢中になりすぎて周りが見えなくなったり過激になってしまったりすることがある
- 次々とアイデアを思いつくがその分疲れてしまう
③衝動の症状例
- 自分の発言や行動を抑えることが苦手で、相手の意見や話を聞くことを忘れてしまう
- 所持金に関係なく衝動買いをしてしまう
以上のような症状が報告されています。
当事者の困りごと
衝動性の強いFさんの場合
Fさんは、小さい頃から理科が得意で、大手製薬メーカーの開発部に所属しています。
仕事や学問は人並み以上にできるため、テストの成績や仕事の評判は良く、
何も問題がないように見えていました。
しかしながら、人間関係の構築に苦手さがあり、
同僚や部下とうまく付き合うことができません。
いつもストレートすぎる言い方をしてしまい同僚や部下からは敬遠されていました。
そのような環境の中で仕事をすることに少しずつストレスがたまるようになりました。
このままではいけないと精神科を受診し、診察の結果、
感情的になりやすく、他の子供の意見を聞こうとしない傾向が、
子どもの時から強くあったことがわかりました。
完全に孤立していたわけではありませんが、
他の友達とうまく付き合えず、いじめの被害にあうこともあったようです。
また、忘れ物が多く、毎日のように先生から叱られていました。
ただし成績は優秀だったため、学校で問題とされることはありませんでした。
一方で、社会人になってからは上手くいかないことが続きました。
職場は多忙で深夜までの残業が多く、
うまく休むことができないため、倒れるまで働き続けてしまいました。
そんな中でイライラがたまると、職場で同僚に対して当たってしまい、
職場内での人間関係構築がうまくできずに、
家に帰ってから落ち込むことが多かったようです。
不注意性の強いA さんの仕事
営業事務として働く A さんは、ADHDの特性である、
「ワーキングメモリーの弱み」によって、
常日頃から失くし物が多いという困りごとを抱えていました。
ある日、仕事の大切な書類を失くしてしまい、上司から注意を受けた A さん。
「次からは気をつけよう」と思っていたのですが、
1週間後、今度は会社用の携帯をどこかに置き忘れてしまいました。
「この前注意したばかりなのに」と上司から叱られただけでなく、
同僚からも白い目で見られたAさんは、次第に仕事に行くのが嫌になっていきます。
その後も、仕事で失敗するたびに上司から注意を受け続けた A さんは、
「自分は何をやってもうまくいかない」と思うようになり、
どんどん自己肯定感が下がっていきました。
そして数ヶ月後、A さんは気分がひどく落ち込んだり、夜も眠れなくなったり、
日常生活に支障をきたすようになってしまいました。
その結果、発達障害の二次障害として、うつ病の診断を受けました。
このように、発達障害について適切なサポートを受けられない場合、
適応障害などの二次障害を発症してしまうケースが多く報告されています。
二次障害とは
ADHDには、さまざまな精神疾患が合併することが多いといわれています。
こうした場合、ADHD自体は注目されず、あるいは見逃されて、
併存する精神疾患への対応が中心となりやすいです。
ロナルド・ケスラーによる2006年の米国の大規模調査によると 、
ADHDの47.1%に不安障害、38.3%に気分障害、
15.2%に薬物依存が併存していた、という結果があります。
本人ができる対策
では、発達障害の症状はどのような対策によって緩和されるのでしょうか。
以下に、「不注意」「多動」「衝動」の症状別の具体的な対策を挙げてみます。
タイプ別に、職場や日常生活のシーンを想像しながら読んでみてください。
①不注意の対策例
ぼんやりしていることが多いタイプ
- 作業マニュアルをつくる
- 細かいスケジュール表をつくる
- こまめに休憩をいれる
- 長所がより活かせる部署に配置転換を考える
感覚過敏があるタイプ
- パーテーションなどで仕切る
- 耳栓などで聴覚刺激を遮断する
- 話す時は前方から声をかけてもらう
忘れ物が多いタイプ
- 忘れやすいことを周囲の人の知らせておく
- 手帳やカレンダーに予定をかきこむ
先延ばし癖があるタイプ
- 手順をイラストや写真でわかりやすくする
- 面倒なことから先に片付けるようにする
- どこまでできれば仕事が完了するのかを完成品を見て理解する
パニックになってしまうタイプ
- 気持ちを落ち着けるため、ひとりになれる場所を確保する
- ストレスの対処法を決めておく
- 苦手なことは無理してひとりでやらず、人の助けを借りる
②多動の対策例
落ち着かないタイプ
- やるべきことに、いくつの工程があるかを確認する
- すべての工程の作業を細かく理解する
- 順次確実に進める
- 優先順位を考えておく
マナーを理解しにくいタイプ
- 「今、お話ししても大丈夫でしょうか」と一言確認する
- 状況、場面に応じた声の大きさを調整する
③衝動の対策例
カッとなりやすいタイプ
- 一人になれる場所を確保する
- 自己主張を抑え、聞き役に徹する
こだわりが強いタイプ
- 自分がどう振る舞えばいいかわからないときは、人に聞く
- 相手が気分を害したり怒ったりしたら、とにかく謝る
- どういう感情がどういうときに湧き出すか知っておく
- 優先順位をつけてやらなくてはならないこと、やらなくていいことを区別する
- できなくても仕方がないことがある、と理解する
アルコールやギャンブルに依存してしまうタイプ
- 大金を持ち歩かない
- クレジットカードは使わない
- 無闇に人を信用しない
- 過集中にならないよう、趣味を持つ
周りの人ができる対策
本人ができる対策にも限界があり、
周囲に助けを求めにくい人もいるため、家族や職場での配慮も重要です。
周りの人ができることとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く
- 短く、はっきりとした言い方で伝える
- 気の散りにくい座席の位置の工夫、わかりやすいルール提示などの配慮をする
- ストレスケア(傷つき体験への寄り添い、適応行動ができたことへの評価)をこまめに行う
職場に特化した対策では、以下のような例が挙げられます。
例)同僚が「○○さん、仕事が全然進んでないようだな……」と感じた場合
- 何か困っていることがあるのか、声をかけるのが望ましい
- 困っているとのことであれば、内容に応じて解決方法(誰に聞けばよいかを含め)を一緒に考えるとよい困っていないということであれば、そっとしておきつつ、指導・管理担当者等に一声かけておくのが望ましい
まとめ
ADHDは、当事者すら気づいていない場合があり、
原因がわからずストレスを抱えることが多くあります。
薬物治療によって症状を緩和することもできる可能性があるので、
悩んでいる方は精神科・心療内科へ相談することも考えてみましょう。
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